トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「よし、突っ込む。サラはここにいてくれ」
「えっ、はい。わかりました」

 即断ですか。そして単騎で突入ですか。
 さっきの人狼兵士に応援とか――あ、そうだ。この人、魔王だった。それは手助け不要だわ。
 ギルがヒラリと壁を越えて行く。
 ミニマップ上で青いマークが、一直線に建物に向かう。

(あ、地図だとここからもう少し先に門らしきところがある)

 門からなら建物の様子が見えないだろうか。私はその場所まで走った。
 その途中、
 ドッカーン
 豪快に鳴り響く破壊音。

(うわぁ……先代魔王の別邸でそんな音出していいの?)

 確かめるまでもなく音の出所と犯人がわかり、私はさらに急いだ。

「わー……」

 そしてようやく到着した私が見たのは、半壊した豪邸だった。
 元の姿を見ていないので、全部がギルの仕業かどうかの判別は付かない。が、黒い煙が上がっているし派手な音も立てていたし、無罪ではないだろう。

(あれが魔物攫いかな?)

 前庭の芝生に、数人の男女が転がっているのが見えた。てんでに喚いている辺り、死んではいないことが窺える。
 魔王城に連れ帰るんだろうか。その場合、シナレフィーさんに瞬殺される心配が……。

「サラの言う通りだったな! お前を嫁にして、本当にいいことばかりだ」
「わわっ」

 黒焦げの死体を想像していたところで、戻ってきたギルに頭をクシャッと撫でられた。
 ギルを見る。
 ツンツン銀髪に乱れ無し、服装の乱れも無し。
 さすがですね。格好いいですね。惚れ直します。

「魔物攫いたちは、どうするんですか?」
「兵士に連絡して、森に捨ててこさせる。城なんかに連れ帰ってみろ、シナレフィーに灰にされるのがオチだ」

 あ、やっぱり。しかも黒焦げどころか灰まで行くんだ。

「一度捕まえた人間には、印を施してあるからな。印のある人間は、カルガディウムの結界に弾かれる。放しても平気だ」
「それなら安心ですね」

 カルガディウムまで侵入出来る人間は、限られているはず。それを今回、一網打尽にしたわけだから、次の冒険者パーティーが育つまで時間的猶予が作れたのでは。

「よし、一仕事終えた」

 ギルがグッと伸びをする。

「この後は、城に帰るまでデートだ」

 そして彼は、そう言って私に手を差し出した。
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