トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
世間話の延長として聞いてきたと思っていた彼は、予想を裏切って真剣な表情をしていた。
そして――不安げにしていた。
(ちゃんと、好きだよ)
そう言いたいのに突然のことで言葉にならなくて。でもとにかく不安は払拭してあげたくて、私はコクコクと頷いてみせた。
それでも何とか伝わったらしい。ギルは、ぱぁっと表情を明るくした。
「それなら良かった。勇者との契約を外すためとは言え、勝手に嫁にしてしまったからな。実を言うと、少し気にしていた」
「勇者との契約?」
初めて耳にした話に、思わずギルの言葉を鸚鵡返しする。
「勇者の一族には、身内の死に反応して効力を発揮する指輪が伝わっている。何でも、すべての能力が大幅に上がるとか」
「身内の死に反応って……勇者が持つ割には呪われたアイテムっぽいんですが」
「呪いなんてものは、完全に主観だからな。勇者が抜こうとしていた森にあった剣だって、そうだ。『竜殺しの剣』、勇者からすれば聖剣でも、俺たちからすれば魔剣だ」
「確かに」
身内の死に反応して効力を発揮する指輪なんて、ギルが言うように呪いにしか思えない。けれど、勇者側には女神の慈悲とか、綺麗な言葉で誤魔化されて伝わっている可能性がある。
「そんなわけで、サラに施されていた結婚の契約を強引に破棄してやった。それ以上の効力がある契約で」
「それがギルが私を嫁にした理由……それじゃ、『運命の相手』というのは……」
言葉の綾とかそう言う?
それはまあ、いきなり嫁と言いだして可愛がりだして、考えればおかしい事態だったわけだけど……。
理由を知りたいと思っていたのに、いざ理由を聞かされたら凹んでしまった。
「助けを求める声に呼ばれて行ってみれば、その先で勇者の企みを阻止することができた。俺に助けを求めたお前、そんなお前に助けられた俺。そんなの、『運命の相手』だろう。他の男との契約をぶち壊しくらいするさ」
ん? あれ? 思ってた展開と違う。
『運命の相手』は、やっぱり運命の相手で。それは変わらなくて?
(あ、そうか)
落ち着いて考えてみれば、どうしても私の契約を破棄しないといけない理由なんて、ギルには無い。勇者の身内として殺されるのが困るだけなら、契約付きのまま回収して、隔離なりなんなりをすればいいだけの話なのだから。
つまりギルは――
「ギルは、相思相愛の意味で『運命の相手』だと思ったから、私を嫁にした?」
「ああ、そうだ」
ギルが胸を張って即答する。そういえば、初日にそう宣言した時も彼は得意気だった。あの時は、私の適当な発言を鵜呑みにしてしまっただけかと思っていたけれど。
ギルの真意に、心がじんわりと温かくなる。
それと同時に、頭の隅に追いやっていた胸の引っ掛かりが、顕在化する。
「……私がギルに助けを求めたのは、本当に偶然なんです」
私は、どんどん大きくなっていくそれを、ギルに打ち明けた。
「勇者が悪なら魔王が正義でしょう、みたいな。ただそんな理由で。だから、ギルにそんなふうに思ってもらえる資格なんて、本当は――」
「はははっ」
段々と小さくなっていった私の声が、ギルの笑い声に掻き消される。
「何だ、そんなことを気にしてたのか。知ってるさ、偶然なことくらい。でも、それがどうしたんだ」
クシャクシャと頭を撫でられ、俯いていた私の顔はその反動で上向かされた。
そして――不安げにしていた。
(ちゃんと、好きだよ)
そう言いたいのに突然のことで言葉にならなくて。でもとにかく不安は払拭してあげたくて、私はコクコクと頷いてみせた。
それでも何とか伝わったらしい。ギルは、ぱぁっと表情を明るくした。
「それなら良かった。勇者との契約を外すためとは言え、勝手に嫁にしてしまったからな。実を言うと、少し気にしていた」
「勇者との契約?」
初めて耳にした話に、思わずギルの言葉を鸚鵡返しする。
「勇者の一族には、身内の死に反応して効力を発揮する指輪が伝わっている。何でも、すべての能力が大幅に上がるとか」
「身内の死に反応って……勇者が持つ割には呪われたアイテムっぽいんですが」
「呪いなんてものは、完全に主観だからな。勇者が抜こうとしていた森にあった剣だって、そうだ。『竜殺しの剣』、勇者からすれば聖剣でも、俺たちからすれば魔剣だ」
「確かに」
身内の死に反応して効力を発揮する指輪なんて、ギルが言うように呪いにしか思えない。けれど、勇者側には女神の慈悲とか、綺麗な言葉で誤魔化されて伝わっている可能性がある。
「そんなわけで、サラに施されていた結婚の契約を強引に破棄してやった。それ以上の効力がある契約で」
「それがギルが私を嫁にした理由……それじゃ、『運命の相手』というのは……」
言葉の綾とかそう言う?
それはまあ、いきなり嫁と言いだして可愛がりだして、考えればおかしい事態だったわけだけど……。
理由を知りたいと思っていたのに、いざ理由を聞かされたら凹んでしまった。
「助けを求める声に呼ばれて行ってみれば、その先で勇者の企みを阻止することができた。俺に助けを求めたお前、そんなお前に助けられた俺。そんなの、『運命の相手』だろう。他の男との契約をぶち壊しくらいするさ」
ん? あれ? 思ってた展開と違う。
『運命の相手』は、やっぱり運命の相手で。それは変わらなくて?
(あ、そうか)
落ち着いて考えてみれば、どうしても私の契約を破棄しないといけない理由なんて、ギルには無い。勇者の身内として殺されるのが困るだけなら、契約付きのまま回収して、隔離なりなんなりをすればいいだけの話なのだから。
つまりギルは――
「ギルは、相思相愛の意味で『運命の相手』だと思ったから、私を嫁にした?」
「ああ、そうだ」
ギルが胸を張って即答する。そういえば、初日にそう宣言した時も彼は得意気だった。あの時は、私の適当な発言を鵜呑みにしてしまっただけかと思っていたけれど。
ギルの真意に、心がじんわりと温かくなる。
それと同時に、頭の隅に追いやっていた胸の引っ掛かりが、顕在化する。
「……私がギルに助けを求めたのは、本当に偶然なんです」
私は、どんどん大きくなっていくそれを、ギルに打ち明けた。
「勇者が悪なら魔王が正義でしょう、みたいな。ただそんな理由で。だから、ギルにそんなふうに思ってもらえる資格なんて、本当は――」
「はははっ」
段々と小さくなっていった私の声が、ギルの笑い声に掻き消される。
「何だ、そんなことを気にしてたのか。知ってるさ、偶然なことくらい。でも、それがどうしたんだ」
クシャクシャと頭を撫でられ、俯いていた私の顔はその反動で上向かされた。