トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
嫁のお取り扱い
夕食後、私はギルの私室に招かれていた。
ギルの私室に入るのは初めてだなと、呑気に眺めていた五秒前の私は、知る由もありませんでした。
(どうしてこうなった⁉)
押し倒されております。ギルによってベッドに、現在、押し倒されております。
「えっと……ギル、これって?」
私の肩の横に両手を突いて覆い被さるギルに、状況の説明を求める。
これもそれも無いような気もするが、何か事情があるとも限らない。
「シナレフィーが初めてミアの唇にキスした時、倒れたと聞いたから。最初から安全を考慮してみた」
事情があったー!
ミアさん、倒れたのか。シナレフィーさんに色々吹き込んでいるあたり、ロマンチストぽいところがあるから。うん、彼女ならクラクラして倒れかねない。
ギルはそれを心配したと。そうか、押し倒してきたのは、ギルの優しさか。前提が、まずおかしい気はするけれど。
ところで、これはやっぱり街で言っていた「予約」の受け取り待ちということですよね。私の要望通り、二人きりになって。私が倒れる準備までしているあたり。
色々考えてくれるのは、素直に嬉しい。でもこう「さあ、するぞ」が前面に出てしまっていてはロマンが無いので、私はミアさんと違って「ああ、うっとり」と倒れることは無さそう。
ボーンボーン……
暖炉の側に立つ柱時計が鳴る。食堂ほど大きくはなく、私の腰の高さほどだ。
「サラ、こっちを向いて」
無意識に時計を見遣っていた私を、ギルが呼び戻す。
ち、近っ。顔近い。目を閉じたギルって初めて見た。あと、ギルの銀髪が触れている頬がくすぐったい。
そ、それから――
「んっ」
ごちゃごちゃと考えていたすべては、一瞬で雲散した。
(キス、キスして……る!)
同時に今度は目の前のことに、意識が集中する。
うあぁ……駄目、見てられない。あ、見てられないなら目を閉じればいい。
ぎゅっ
固く瞼を閉じる。
結果、視覚に分散されていた意識が触覚に一点集中することに。
(わー、わー)
唇の上、下、端。滑らかに動くギルの唇を、つい追ってしまう。
ただ重ねられただけのはずが、どうしてか触れられるたびに酷く熱い。
外から、内から熱くて。私は息苦しさに、助けを求めるようにギルの片腕に手を添えた。
その気持ちが通じたのか、ギルが少しだけ顔を離す。
「ギル――ん、む……っ」
彼の名を呼んだことで開いた隙間から、ギルの舌が腔内に侵入してくる。
通じてなかった。さらに状況が悪化した。
逃げ惑う私の舌を、ギルがまるで見えているかのように的確に追ってくる。
(うわわ……キスって本当に音がするものだったの)
擬音だと思っていたクチュクチュという音が、まさにそのまま私の耳を犯している。
それが止んだかと思えば、
「ひゃあっ」
その音を生み出していたものに直接耳を食まれ、私の肩は大きく跳ねた。
「サラ……もっと、したい……」
肩ばかりか私の全身を震わせるようなギルの囁きが聞こえた直後、再びギルの舌に私の舌が絡め取られる。
「は、ふ……」
きゅっと、彼を掴んだ手に力が入る。
(そっか、通じてなかったんじゃない)
ギルが口にした「もっと」は、きっと私の本音でもある。
ギルに触れた私の手は、彼を引き寄せている。
「サラ、もっと……」
ギルの片手が私の頬に掛かり、上向かされ、口づけが深くなる。
頭の奥がぼんやりとしてきて、体中から力が抜けていく。
それは固く閉じていた瞼も同様で、薄らと戻ってきた視界に、私を貪るギルが見えた。
「は……」
キスの合間に聞こえる吐息は、ギルのものなのか、私のものなのか。
「もっと欲しい……」
(私も……)
そう答えようとした私の声は、音にならなかった。
そして私は、
「……サラ?」
倒れたというミアさんがロマンではなく、物理的に倒されたのだと、次に目が覚めた夜中に悟ったのだった。
バタン
きゅう
ギルの私室に入るのは初めてだなと、呑気に眺めていた五秒前の私は、知る由もありませんでした。
(どうしてこうなった⁉)
押し倒されております。ギルによってベッドに、現在、押し倒されております。
「えっと……ギル、これって?」
私の肩の横に両手を突いて覆い被さるギルに、状況の説明を求める。
これもそれも無いような気もするが、何か事情があるとも限らない。
「シナレフィーが初めてミアの唇にキスした時、倒れたと聞いたから。最初から安全を考慮してみた」
事情があったー!
ミアさん、倒れたのか。シナレフィーさんに色々吹き込んでいるあたり、ロマンチストぽいところがあるから。うん、彼女ならクラクラして倒れかねない。
ギルはそれを心配したと。そうか、押し倒してきたのは、ギルの優しさか。前提が、まずおかしい気はするけれど。
ところで、これはやっぱり街で言っていた「予約」の受け取り待ちということですよね。私の要望通り、二人きりになって。私が倒れる準備までしているあたり。
色々考えてくれるのは、素直に嬉しい。でもこう「さあ、するぞ」が前面に出てしまっていてはロマンが無いので、私はミアさんと違って「ああ、うっとり」と倒れることは無さそう。
ボーンボーン……
暖炉の側に立つ柱時計が鳴る。食堂ほど大きくはなく、私の腰の高さほどだ。
「サラ、こっちを向いて」
無意識に時計を見遣っていた私を、ギルが呼び戻す。
ち、近っ。顔近い。目を閉じたギルって初めて見た。あと、ギルの銀髪が触れている頬がくすぐったい。
そ、それから――
「んっ」
ごちゃごちゃと考えていたすべては、一瞬で雲散した。
(キス、キスして……る!)
同時に今度は目の前のことに、意識が集中する。
うあぁ……駄目、見てられない。あ、見てられないなら目を閉じればいい。
ぎゅっ
固く瞼を閉じる。
結果、視覚に分散されていた意識が触覚に一点集中することに。
(わー、わー)
唇の上、下、端。滑らかに動くギルの唇を、つい追ってしまう。
ただ重ねられただけのはずが、どうしてか触れられるたびに酷く熱い。
外から、内から熱くて。私は息苦しさに、助けを求めるようにギルの片腕に手を添えた。
その気持ちが通じたのか、ギルが少しだけ顔を離す。
「ギル――ん、む……っ」
彼の名を呼んだことで開いた隙間から、ギルの舌が腔内に侵入してくる。
通じてなかった。さらに状況が悪化した。
逃げ惑う私の舌を、ギルがまるで見えているかのように的確に追ってくる。
(うわわ……キスって本当に音がするものだったの)
擬音だと思っていたクチュクチュという音が、まさにそのまま私の耳を犯している。
それが止んだかと思えば、
「ひゃあっ」
その音を生み出していたものに直接耳を食まれ、私の肩は大きく跳ねた。
「サラ……もっと、したい……」
肩ばかりか私の全身を震わせるようなギルの囁きが聞こえた直後、再びギルの舌に私の舌が絡め取られる。
「は、ふ……」
きゅっと、彼を掴んだ手に力が入る。
(そっか、通じてなかったんじゃない)
ギルが口にした「もっと」は、きっと私の本音でもある。
ギルに触れた私の手は、彼を引き寄せている。
「サラ、もっと……」
ギルの片手が私の頬に掛かり、上向かされ、口づけが深くなる。
頭の奥がぼんやりとしてきて、体中から力が抜けていく。
それは固く閉じていた瞼も同様で、薄らと戻ってきた視界に、私を貪るギルが見えた。
「は……」
キスの合間に聞こえる吐息は、ギルのものなのか、私のものなのか。
「もっと欲しい……」
(私も……)
そう答えようとした私の声は、音にならなかった。
そして私は、
「……サラ?」
倒れたというミアさんがロマンではなく、物理的に倒されたのだと、次に目が覚めた夜中に悟ったのだった。
バタン
きゅう