トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~

嫁のお取り扱い -ギル視点-

 ドサドサッ
 調合室で調薬していた俺の真横、シナレフィーが持ち込んだ革袋を床に幾つも積み上げる。

「もしかしてそれ……触媒か?」
「はい。妃殿下が話していたような店が見つかり、そこであっさり手に入りました」
「おおお……」
「発注するまでもなく、在庫でありました。無かった物も、二月程待てば入荷するそうです。そちらは予約購入しておきました」
「ということは、二月後には全て揃うのか! あれだけ探したのに、そんなにありふれたものだったとは」
「いえ、在庫を抱えたのはここ最近のことだという話です。何でも異世界から『勇者の花嫁』を喚ぶのに、転移魔法用の触媒を国が大量に発注したらしく。その召喚は既に行われたため、出遅れた人間が持ってきたものが、在庫として買い叩かれていたみたいですね」

 俺は革袋の山の前に屈み、頂点の一つを手に取って中身を(あらた)めた。
 質は申し分なく、量は有り余る。

「サラにとっては災難だったが、俺たちは助かったな」
「確か、勇者と契約状態にあった妃殿下に、陛下が自分との契約を上書きされたのでしたよね。となると、通常の手順を踏んでいないため、勇者の方の契約は外れていない?」
「そう、向こうは再婚できない。次の花嫁を喚んでも無駄だ」
「それはまた、好都合が重なりますね。妃殿下は、あらゆる意味で陛下の『運命の相手』だったんでしょう」
「そうだろう、そうだろうとも」

 まったくもって、その通り。
 俺はシナレフィーに、大きく頷いてみせた。

「ああ、好都合と言えば、サラのすごい能力がわかった。サラは近くまで行けば、部屋に入らずとも中に宝があるかわかるらしい。彼女を連れて行けば、オーブがどこにあるか格段に探しやすくなる」
「? 言っている意味がわかりませんが」
「サラが言うには、サラを中心とした簡易地図のようなものが見える? らしい。で、それに宝や、探しものがある場所にマーカーが付くとか。その場にいる人数や、敵味方の判別までわかるみたいだぞ」
「ますます言っている意味がわかりませんが」
「俺もわからないが、実際に今日、街に潜伏中だった魔物(さら)いを彼女のその能力で捕まえることができた」
「ああ。戻ってきた時に街が騒がしかった理由は、それですか。『妃殿下に乾杯』といった言葉が飛び交っていましたが、てっきり陛下が嫁自慢をしただけかと思っていました」
「あ、それはした」
「したんですか」
「するだろ」
「まあ、しますね」

 あれ、何の話をしてたっけ。
 あ、オーブ奪還の話か。
 コホン
 咳払いを一つ。話を本題に戻そう。
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