トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「そんなわけで、相手の人員配置はサラの能力で筒抜けになる。だから、奪還の際は、交戦を避けて盗む方向で動くつもりだ。残りの触媒が手に入り次第、仕掛ける」
「そうですか。そうなると私は向かないので、陛下の方で対処して下さい」

 シナレフィーが答え、それから彼は「ところで」と続けた。

「随分ご機嫌のようですが、どう――いえ、わかりました。それで話は変わりますが――」
「いやいや、そこはわかっても聞いておけよ」

 聞いて欲しい話題に、触れる直前で通り過ぎようとしたシナレフィーの肩を、ガシッと掴んで引き止める。
 そんな俺に、シナレフィーはあからさまに迷惑そうな顔をした。

「解けた謎には、興味無いのですが」
「お前が昔からどうしてモテるのかが、俺には本当にわからない。いいから、聞け。サラから唇へのキスの許可が下りた。そして、した!」
「予想通りの答ですね。何の面白味もありません」
「お前、普段ミアとどんな話してんだよ。会話になっているのか?」
「ミアには、彼女の提案で一日の会話で予想した内容とどれだけ一致したのか、日の終わりに結果報告することになっています。それはそれで面白いので、自然、彼女の話は聞くことになりますね」
「お前の嫁が一枚上手だった……」

 さすが、この掴み所のない男を掴んだ女である。

「そう言えば、魔界に転移した後は、そこから妃殿下を元の世界に帰すと言っていませんでしたか? そこまで深入りして、帰せるのですか?」

 シナレフィーが言外に、「無理でしょう」とこちらを見てくる。
 同じ竜族として、経験則からの言葉だろう。シナレフィーのミアに対する入れ込み方は激しく、彼は過去にミアを生け贄に差し出した村を半壊させている。
 そしてそういった傾向は、シナレフィーに限らない。多くの竜族に共通する。
 俺も含めて。

「俺はサラに『帰せる』とは言ったが、『帰す』とは言っていない」
「……ああ。陛下も、たまに魔王ですよね」
「たまに⁉」
「しかし何故、そんなまどろっこしい真似を?」

 シナレフィーが、さっきとは違い興味有り気に尋ねてくる。まったく答が予測出来ないといった、そんな顔で。

「何でって、そりゃあだって。選びようがないから仕方なく嫁になりました、みたいな顔されたら俺が凹む」
「陛下は大概、臆病ですよね」
「そこは『たまに』にしておいて欲しい!」
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