トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「それで、結局のところ妃殿下は、そのまま貰い受けるつもりなんですね。そういうことでしたら、やはり持ってきて正解でした」
言って、シナレフィーが脇に抱えていた本を差し出してくる。
そうやって持ってきているあたり、先程シナレフィーが話そうとしていたのは、これについてだろう。
受け取って、俺は、その妙な装丁に首を傾げた。
先日貸してもらった『恋するあなたへ ~初めてのデート編~』とは、随分と印象が違う。表紙にタイトルが書かれておらず、何より鍵が付いている点が不可解だ。
「何の本だ?」
「人間と子供を作る方法が載っています」
「へぁ?」
本を裏返そうとした手が滑り、取り落としそうになったのを慌ててキャッチする。
「なん……な、なん……」
「実際、ミアとの間に子が生まれましたので、有用性は証明されています」
「あ、うん。ちょっと待て。話を進めるな。まず落ち着く」
すー、はー、すー。
集中。呼吸に意識を集中。
……よし。
「サラを嫁にはしたが、正直、まだそういったことは考えたことがなかったな……」
「そう思いましたので、用意しました」
「いや、その、ほら、今忙しい時期で。つまり、今すぐ必要なわけじゃなくて。だから、一回返す。手元にあったら落ち着かない」
俺は最早、本を直視出来ず、余所を向いてシナレフィーに突っ返した。
しかし、「いえ、今すぐ必要です」と、向こうは受け取ろうとしない。
「実行するのは先でも、知識は必要です」
「その心は?」
「態度に表れるからです。匂わせるものがなければ、唇にキスをしたところで子供がじゃれているのと変わりませんよ」
「ぐはっ」
確かに。言われてみれば、確かに。
あ、もしかしてそれ? こいつがモテるのってそこ?
そういや、シナレフィーは結局未遂だったものの、初対面でミアを手籠めにしようとしたらしいからな。そういう危険な香りが必要とか、そういう?
え、無理。俺は無理。冗談でもサラに襲い掛かるとか、無理。絶対途中で恥ずかしくなって自滅する。やる前から目に見える。
「で、でもほら、唇にキスしたとき、サラは照れてたし。子供とは思われてないはず。そのはず」
「今朝の魔王城情報では、妃殿下が『ギルは格好いいのに、可愛い』と言っていたそうです」
「やっぱり借りておく」
反射的に引き上げてしまった本を、俺はつい凝視した。
いやほんと、どうして読むために存在するはずの本に鍵が掛かっているのか。封印しておけと、そういうことではないのか。
見れば見るほど、禍々しい。魔王な俺が見て禍々しいと感じるとか、相当やばい代物に違いない。
「ああ、一つ注意点が」
「なん、ゲホッ、……何だ?」
生唾を飲んだ瞬間に声は掛けないで欲しい。頼むから。
「一度に五頁以上は試さない方がいいです。前にそうしたときミアに酷く叱られ、一週間、口を聞いてもらえませんでした」
やばい代物確定。
もっと初心者向けのはなかったのか。
内心、文句を言いつつも、自分で買いに行く勇気もなければ売り場もわからない。
「わかった……」
先達シナレフィーに従う他ない俺は、そう答えるしかなかった。
言って、シナレフィーが脇に抱えていた本を差し出してくる。
そうやって持ってきているあたり、先程シナレフィーが話そうとしていたのは、これについてだろう。
受け取って、俺は、その妙な装丁に首を傾げた。
先日貸してもらった『恋するあなたへ ~初めてのデート編~』とは、随分と印象が違う。表紙にタイトルが書かれておらず、何より鍵が付いている点が不可解だ。
「何の本だ?」
「人間と子供を作る方法が載っています」
「へぁ?」
本を裏返そうとした手が滑り、取り落としそうになったのを慌ててキャッチする。
「なん……な、なん……」
「実際、ミアとの間に子が生まれましたので、有用性は証明されています」
「あ、うん。ちょっと待て。話を進めるな。まず落ち着く」
すー、はー、すー。
集中。呼吸に意識を集中。
……よし。
「サラを嫁にはしたが、正直、まだそういったことは考えたことがなかったな……」
「そう思いましたので、用意しました」
「いや、その、ほら、今忙しい時期で。つまり、今すぐ必要なわけじゃなくて。だから、一回返す。手元にあったら落ち着かない」
俺は最早、本を直視出来ず、余所を向いてシナレフィーに突っ返した。
しかし、「いえ、今すぐ必要です」と、向こうは受け取ろうとしない。
「実行するのは先でも、知識は必要です」
「その心は?」
「態度に表れるからです。匂わせるものがなければ、唇にキスをしたところで子供がじゃれているのと変わりませんよ」
「ぐはっ」
確かに。言われてみれば、確かに。
あ、もしかしてそれ? こいつがモテるのってそこ?
そういや、シナレフィーは結局未遂だったものの、初対面でミアを手籠めにしようとしたらしいからな。そういう危険な香りが必要とか、そういう?
え、無理。俺は無理。冗談でもサラに襲い掛かるとか、無理。絶対途中で恥ずかしくなって自滅する。やる前から目に見える。
「で、でもほら、唇にキスしたとき、サラは照れてたし。子供とは思われてないはず。そのはず」
「今朝の魔王城情報では、妃殿下が『ギルは格好いいのに、可愛い』と言っていたそうです」
「やっぱり借りておく」
反射的に引き上げてしまった本を、俺はつい凝視した。
いやほんと、どうして読むために存在するはずの本に鍵が掛かっているのか。封印しておけと、そういうことではないのか。
見れば見るほど、禍々しい。魔王な俺が見て禍々しいと感じるとか、相当やばい代物に違いない。
「ああ、一つ注意点が」
「なん、ゲホッ、……何だ?」
生唾を飲んだ瞬間に声は掛けないで欲しい。頼むから。
「一度に五頁以上は試さない方がいいです。前にそうしたときミアに酷く叱られ、一週間、口を聞いてもらえませんでした」
やばい代物確定。
もっと初心者向けのはなかったのか。
内心、文句を言いつつも、自分で買いに行く勇気もなければ売り場もわからない。
「わかった……」
先達シナレフィーに従う他ない俺は、そう答えるしかなかった。