トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「竜の体液で、老化が緩やかに……」

 落ち着くために、ひとまずミアさんの言葉を繰り返した私に、ミアさんが「そう」と相槌を打つ。

(……あ、うん。あったあった、そういうアイテム)

 体液と言われたから、すぐにはピンと来なかった。けれど、『竜の血』だったならよく見かけるアイテムだ。
 蘇生薬であったり、ステータスUPであったり。神話でも木の葉のせいで浴びなかった一点を除いて、竜の血で不死身になった英雄の話があった。竜由来のアイテムに、奇跡を起こす効果は確かにありそうだ。

「でも寿命が延びるだけで、身体自体が丈夫になるわけじゃないから。きっと私たちは彼らを遺して逝く方になってしまうのでしょうね」

 ミアさんが悲しげな表情で、百年花の花びらを指先で撫でる。
 それからスクッと立ち上がった彼女の顔からは、もう悲しみの色は見えなくなっていた。

「この話題はレフィーの前では禁止ね。ああ見えて繊細な人だから」
「わかりました」

 口の前で人差し指を立てたミアさんに、私は頷いてみせた。
 ほんの数日見ただけでも、シナレフィーさんのミアさんに対する溺愛は見て取れた。彼女が言うように、『死』の話題は彼にとって禁句中の禁句にあたるだろう。
 ミアさんに続いて、私も立ち上がる。

「そう言えば、サラさんはもう魔王城と話してみたかしら?」
「えっ、ミアさんは話せるんですか?」

 てっきり、魔に属する者だけのテレパシーだと思っていたのに。

「キスした後、数時間くらいは魔力を帯びているから、その時なら私たちも念話できるのよ」
「なんと」

 竜の体液が万能過ぎる件について。

「今の時間ならまだできるかも。呼び掛けてみてはどうかしら。こちらから話すのは、普通に声に出していて大丈夫よ」

 ああ、あの。ギルが私の目から見て、一人で(しやべ)っているように見えていたアレですね。
 でもミアさんにも念話が聞こえるわけだから、私がそうしても変には見えないのよね?
 それなら、やってみたい。

「えっと……魔王城さん、聞こえてますか?」

 どこに向かって話せばいいのかわからないので、ギルがよく見ている方向を真似て話し掛けてみる。

『ん? お妃さんか』

 本当に反応が返ってきた!
 青年男性な感じの声だ。城に性別があるのかは知らないけれど。

「はい。沙羅です。あの、素敵な部屋をありがとうございました」
『初日にもお礼を言ってくれてたよな、こっちこそありがとう。コタツだっけか。飛び付いてくれて、用意し甲斐があったよ。記憶をちょちょっと覗いた時に、寛ぐといえばコレみたいに出てきたから、選んだんだけど。そんなに良いなら、オレも入ってみたいもんだ』

 城が()(たつ)にどうやって。残念ながら、それは無理かと。
 というか、今サラッと「記憶をちょちょっと覗いた」とか言われたよ。魔王城の能力高過ぎやしませんか。
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