トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「あの店です」

 街の中心部まで来て、シナレフィーさんが目的の店を指差す。
 王都見物をするつもりが、ほとんどミアさんとシナレフィーさんを見ているだけで、ここまで来てしまった。
 というのも、ミアさんの問いに次々答えるシナレフィーさんが面白過ぎた。
 王都の人口なんていう定番なものから、石畳のデザインをした人物名というマイナーなものまで、すべて即答。王城の隠し通路の数については、それ普通に漏れてたら駄目な情報……。
 チリン
 シナレフィーさんが店の扉を開け、呼び鈴が鳴る。

「いらっしゃい」

 入店すると、奥のカウンターから声が飛んできた。店主だろう、ふっくら体型の気の良さそうなおばさんだ。
 店内にいるのは、私たちだけのようだった。それでも、こぢんまりした店内なので、四人でもう満員御礼状態だ。思い思いの場所に行っても、難なく会話が出来るほど距離が近い。

「ここで買った物は、向こうで似たような物を作らせる際の参考にします」

 シナレフィーさんが購入の目的を私たちに話す。
 王都ならもっと大きな店もあるだろうに、敢えてここを選んだということは商品の質が良いんだろうな。

「あちらは変化が緩やかなので、二百年経っても変わっていないでしょうね」

 シナレフィーさんが、側の棚にあったペンを手に取る。
 お眼鏡に適ったのか、それを持ったまま彼は移動した。

(先代魔王がこの世界に来て、二百年くらいってことか)

 二百年、二百年か。シナレフィーさんは軽い感じで口にしていたが、二百年とは相当な年数だ。日本で二百年も遡れば、江戸時代になってしまう。地球全体では国そのものが存在しない国も多いはず。

(あ……っ)

 私は不意に至った考えに、思わず息を呑んだ。
 それだけ魔物と共存していたなら、魔物素材で作られた衣類や家具というのは、ありふれたものになっているんじゃないだろうか。
 人間の感覚で二百年分の生活様式を変更するのは、至難の業。魔物が魔界に引き上げることを人間が知れば、それを阻止しようとする者が出て来てもおかしくはない。

(……ううん、もう勘付かれているのかも)

 カシムが勇者として覚醒しようとしているのは、まさにそれが理由なのかもしれない。
 ただ魔物を狩るだけなら、冒険者ギルドが請け負えばいい。わざわざ『勇者』に拘る必要は無い。
 勇者の狙いはゲームでもそうであるように、魔王――ギルを倒すことのように思える。魔界へ引き上げようとするギルを殺して、素材としての魔物をこの世界に留めるために。

(あくまで可能性だけど、これも『竜殺しの剣』の件と一緒にギルに話してみよう)

 当のギルは、「ちょっと溶岩地帯まで鉱石を取りに行ってくる」と出掛けたらしい。(リリ情報)
 『ちょっと溶岩地帯まで』。何たる、パワーワード。
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