トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「妃殿下捜索に、冒険者ギルドから多くの人手を出されても厄介です。少々細工をしておきましょうか」

 本屋を後にして、馬車への道を行きながら、シナレフィーさんが口にする。

「細工ですか?」

 私の問いには答えないで、シナレフィーさんは不意に水路の方へと向かって歩き出した。
 移動中では初めてミアさんの手を離した彼に、不思議に思ってミアさんを見る。
 そのミアさんも、私に小首を傾げてみせた。
 女三人で顔を見合わせた後、私たちも水路へと向かう。
 単に観光しているような(てい)で、シナレフィーさんは跳ね橋の下を通る船を見ていた。
 そして、船が通り切った瞬間――
 ガコーーーン!
 かなり大きな音を立て、跳ね橋の片側は川へと落下した。

「え……」

 遅れてもう片側の橋がゆっくりと下り、先に落ちた方の橋と何事も無かったかのように繋がる。
 普通の橋としては、機能に問題は無さそうだ。

「駆動部を一部、壊しました。そこの跳ね橋は王城の水路へ繋がる場所ですから、急いで修理させるはずです」

 帯電して若干パリパリしているシナレフィーさんが、淡々と言う。
 そういえばこの人、雷竜(サンダードラゴン)だったわ……。
 ざわざわ
 橋が落ちた音を聞きつけた野次馬が、続々と集まってくる。
 次にやって来た船が橋の手前で止まり、中から出て来た持ち主が大声で何かを叫んでいる。

「シナレフィーさんの読み通り、大事になっている感じですね」
「今走って来た人間は、冒険者ギルドで見た覚えがあります。狙い通り、そちらにも依頼が行くでしょう。場合によっては途中で落雷させ、作業を遅らせるのも手ですね」

 自然現象もお手の物とか。竜はやはり強かった。
 用は終えたとばかりに、元いた道へと戻っていくシナレフィーさん。その手をミアさんが、「船に配慮してくれて、ありがとう」と繋ぎ直す。
 シナレフィーさんが「船に配慮」したのは、百パーセントミアさんのその一言のためだろう。一回手を離したのも、ミアさんを感電させないためだろうし。仲良しご夫婦、ご馳走様です!

「帰りも、リリは私と手を繋ごうね」
「はいですっ」

 リリが今度もまた、嬉しそうに返事してくれる。
 先程よりも騒ぎが大きくなってきた水路をチラチラ見つつ、私たちは帰路に着いた。
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