トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
食堂に来た私とギルが定位置に着くや否や、
「前庭で城壁を破壊したそうですね」
先客シナレフィーさんによる、ギルに向けての第一声。
抑揚のない声なのは常のはずが、不機嫌そうに感じるのは、彼の隣にいつもは在るミアさんの姿が見えないことと無関係では無さそうだ。
「気を付けて下さい。うちの子が面白がって真似をしては困ります」
「あー、そっちの心配……。お前が直すとなると手間だろうからな」
給仕をするリリが、テーブルに昼食を並べていく。
王都で食材を買い込んだからか、ここ最近は品数が以前よりも多めだ。そして今日は、超厚切り牛ステーキがメイン料理の様子。
「そうなった場合は陛下に振りますよ。ああいった作業は古代竜の十八番でしょう」
「それはそうだけど。速攻、俺に振るとか」
「ギルのあれは、古代竜の能力だったんですか?」
二人の遣り取りに、私はギルに尋ねた。
つい先程目にした、フワフワと浮いた瓦礫。魔法かと思っていたけれど、王都でシナレフィーさんが跳ね橋を壊したような、竜特有の能力だったのだろうか。
「ああ、さっきの奴な。俺の種族は重力を操るのが得意なんだ」
「へぇ」
確かに百キロはありそうな瓦礫も、綿毛のように浮き上がっていた。
「魔王城の場合は、元位置にさえ戻せば後は勝手に修復してくれるけど、カルガディウムを作った時は結構気を遣ったな。点在していた皆の家を集める作業では、細心の注意を払ったよ」
「? 家を集める?」
耳慣れない表現に、私はギルに聞き返した。
「固まっていた方が俺としては守りやすいから、家屋ごと引っ越してもらったんだ。巣穴に住んでた奴の分は、近くの村から空き家を取ってきて。なかなか大仕事だったな、あれは」
「家屋ごと引っ越し。空き家を取ってくる……」
それ、何て街づくりシミュレーション。
既に建ててしまった建物を、ひょいっと持ち上げて新しい場所に移設。ゲームでしか有り得ないあの反則技を、リアルでしてしまうなんて。
とぽぽっ
リリが仕上げにシードルをワイングラスに注いで、後ろに下がる。
私はリリにお礼を言って、自分のグラスに口を付けた。
「そういや、シナレフィー。ミアはどうした?」
ギルが自分のシードルを一息で飲み干してから、シナレフィーさんに尋ねる。
そこはかとなく聞いてはいけない雰囲気を醸し出していた彼に対し、ズバッと聞いてしまえるギルが強い。
「新しく手に入れた本を連日試したことで、怒らせたようです。今回の昼食は一人で行って来なさいと、部屋から叩き出されました」
「お前って頭が良いわりには、そこに関しては学習しないよな……」
ギルが呆れた感じで返して、料理に手を付ける。
その辺の話は、私もミアさんから聞いていた。シナレフィーさんは、とにかく何でも試したがるらしい。
裁縫について書かれた本の『簡単に針に糸を通す方法』を読んだシナレフィーさんが、もっと効率の良いやり方があるのではと、五時間ひたすら針に糸を通していたとか。はたまた、部屋に置いてある、大きな樹を切り出したテーブルの年輪を数え始めたとか。
ミアさんは、その手のことに毎度付き合わされるらしい。遠い目で語られた。
今回は、怒らせたということは、ミアさんにもっと実害が出るようなことをしていたのかもしれない。何を試したのか、詳細をシナレフィーさんに聞きはしないけれど。決して、聞きはしないけれど。
「前庭で城壁を破壊したそうですね」
先客シナレフィーさんによる、ギルに向けての第一声。
抑揚のない声なのは常のはずが、不機嫌そうに感じるのは、彼の隣にいつもは在るミアさんの姿が見えないことと無関係では無さそうだ。
「気を付けて下さい。うちの子が面白がって真似をしては困ります」
「あー、そっちの心配……。お前が直すとなると手間だろうからな」
給仕をするリリが、テーブルに昼食を並べていく。
王都で食材を買い込んだからか、ここ最近は品数が以前よりも多めだ。そして今日は、超厚切り牛ステーキがメイン料理の様子。
「そうなった場合は陛下に振りますよ。ああいった作業は古代竜の十八番でしょう」
「それはそうだけど。速攻、俺に振るとか」
「ギルのあれは、古代竜の能力だったんですか?」
二人の遣り取りに、私はギルに尋ねた。
つい先程目にした、フワフワと浮いた瓦礫。魔法かと思っていたけれど、王都でシナレフィーさんが跳ね橋を壊したような、竜特有の能力だったのだろうか。
「ああ、さっきの奴な。俺の種族は重力を操るのが得意なんだ」
「へぇ」
確かに百キロはありそうな瓦礫も、綿毛のように浮き上がっていた。
「魔王城の場合は、元位置にさえ戻せば後は勝手に修復してくれるけど、カルガディウムを作った時は結構気を遣ったな。点在していた皆の家を集める作業では、細心の注意を払ったよ」
「? 家を集める?」
耳慣れない表現に、私はギルに聞き返した。
「固まっていた方が俺としては守りやすいから、家屋ごと引っ越してもらったんだ。巣穴に住んでた奴の分は、近くの村から空き家を取ってきて。なかなか大仕事だったな、あれは」
「家屋ごと引っ越し。空き家を取ってくる……」
それ、何て街づくりシミュレーション。
既に建ててしまった建物を、ひょいっと持ち上げて新しい場所に移設。ゲームでしか有り得ないあの反則技を、リアルでしてしまうなんて。
とぽぽっ
リリが仕上げにシードルをワイングラスに注いで、後ろに下がる。
私はリリにお礼を言って、自分のグラスに口を付けた。
「そういや、シナレフィー。ミアはどうした?」
ギルが自分のシードルを一息で飲み干してから、シナレフィーさんに尋ねる。
そこはかとなく聞いてはいけない雰囲気を醸し出していた彼に対し、ズバッと聞いてしまえるギルが強い。
「新しく手に入れた本を連日試したことで、怒らせたようです。今回の昼食は一人で行って来なさいと、部屋から叩き出されました」
「お前って頭が良いわりには、そこに関しては学習しないよな……」
ギルが呆れた感じで返して、料理に手を付ける。
その辺の話は、私もミアさんから聞いていた。シナレフィーさんは、とにかく何でも試したがるらしい。
裁縫について書かれた本の『簡単に針に糸を通す方法』を読んだシナレフィーさんが、もっと効率の良いやり方があるのではと、五時間ひたすら針に糸を通していたとか。はたまた、部屋に置いてある、大きな樹を切り出したテーブルの年輪を数え始めたとか。
ミアさんは、その手のことに毎度付き合わされるらしい。遠い目で語られた。
今回は、怒らせたということは、ミアさんにもっと実害が出るようなことをしていたのかもしれない。何を試したのか、詳細をシナレフィーさんに聞きはしないけれど。決して、聞きはしないけれど。