トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「へぇ……それは奇遇ですね」

 やはり淡々とした口調でシナレフィーさんが話す。

(んん?)

 彼の一挙一動に注視していた私は、その反応に困惑した。
 賛成反対無関心さあどれだと構えていたのを、そのどれでもなく回答は『奇遇』。シナレフィーさんの意図がわからず、私は続くのか続かないのか不明な彼の次の言葉を待った。

「人間が増えれば妻が喜びそうです。同族にしか分かち合えない部分もあるでしょうから」
「えっ、シナレフィーさんの奥さんて人間なんですか?」

 困惑の次は、驚きの回答。
 竜の妻が人間ということも驚きだが、妻が喜びそうという発言から愛情も見て取れる。
 無表情は、別に「人間風情が」と思っていたからでは無かったようだ。ごめんなさい。

「ええ。散策に出た際に、拾ったんですよ」
「拾った」

 拾った、とは。そんな、綺麗な石を見つけたから持ち帰ったみたいな。
 ああでも竜は美しいものを集めるのが好きというのは、ファンタジーの定番だっけ。
 そう思って見れば拾いそう。この人なら拾いそう。出会ったばかりでありながら、何故だか私の中で確信めいたものがあった。

「それで仕事の話は後ですか? 妃殿下を先に落ち着かせたいでしょう」
「ああ。悪いな、予定より遅れた上さらに待たせて」
「構いません。私もそろそろ妻とキスをする時間です。では後ほど、執務室で」

 やはり無表情のまま、シナレフィーさんが退座する。

「――えっ?」

 それがあまりに自然過ぎて、私が声を上げたのは彼が完全に見えなくなってからだった。

(『キスをする時間』て何⁉)

 いや、何かと言ったらそれはキスをする時間なのだろうけれども。

「今日は予定外の場所に三箇所も行ったからな。もうそんな時間だったのか」

 そして「もうそんな時間」と言うからには、彼の習慣なわけで⁉
 ぶっ飛んだ理由で席を外す部下。それをれっきとした理由として受理する魔王。
 予想とは違った意味で、人間の常識を超えているね、魔王城。

「俺もサラとのキスの時間は、日に三回でいいのか?」
「えっ」

 貴方もそれ習慣にするつもりですか。というかシナレフィーさん、それやってるんですか。
 ようやくギルが私を地面に下ろしてくれる。そして彼は空いた手で、私の片手を取った。

(わふっ)

 取られた手に寄せられた唇に、変な声を上げ掛けて、慌てて口を閉じる。

「付き合って暫くは唇以外にすると聞いた。合ってるか?」
「あ、う……」

 わかりません! だって異世界人ですもの!
 ああ、でもだからって唇にされるともっと困る……!

「合ってると……思います」

 多分。
 多分、そういう世界なんだろう。そう思うしかない。
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