トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「? まったく手を出さなかったんですか?」
「そりゃ……だってほら、表向きは俺、サラに元の世界に帰せるよって言ってるわけだし。子供ができるような真似をしたら、不誠実じゃないか」
「そう言えば陛下の先祖にも、人間が竜の子を孕んで害があったら困るとかで、白い結婚をしていた方がいましたよね。例え子供を作らなくとも、そんなもの幾らでもやりようは――」
「ストップ! もうこの話題は止めっ。お前を訪ねた本題に入らせて欲しい!」

 これ以上こんな話を続けていたら、自分の部屋に帰ったときに禁断の内扉を開けかねない。俺は自分の理性を過信しない。
 でも、そうか。カシムの件が落ち着いたあたりで、彼女に魔界に残って欲しいと伝えないと。サラも俺が好きだと言ってくれたし、頷いてくれるはず。そうしたら、俺はサラと――

「本題に入ると前置きした後、妄想に入らないでもらえます?」
「! し、してない。まだ妄想してなかったからなっ。えーっと、そう、精霊の村に何日か滞在するかもしれないから、念のため日に一回、溶岩地帯の様子を見に行ってくれ。で、必要なら雨を降らせて固めてくれ」
「わかりました」

 シナレフィーが二つ返事で引き受ける。

「範囲全部だぞ」
「……わかりました」

 今度は、あからさまに面倒そうに返事をされる。
 やっぱりミアに関係が無いところは、最初は見ないつもりだったな、こいつ。ある意味、徹底しているというか、何というか。

「ん? 頼みたいのはそれだけだ。どうした?」

 話が終われば即座に部屋に撤収するかと思いきや、何故かシナレフィーはその場から動かなかった。
 何か考え込む様子で、俺の手元を見ている。
 ……手元⁉

「分解、駄目! 絶対!」

 俺は即座に空間移動を発動させ、自分の部屋へと飛んだ。

「痛っ」

 でもって部屋に出た瞬間、ソファーに足をぶつけた。
 やはり座標がずれるらしい。だがあの場ではこの選択以外無かったと思う。

「……目が本気だったぞ、あいつ」

 そっと包んでいた手を除けて、中を確認する。
 折れ、無し。皺、無し。
 折り鶴を魔の手から守れたようだ。俺は、ほっと溜息をついた。
< 46 / 106 >

この作品をシェア

pagetop