トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「ジラフ様。それはもしや、魔王は魔物も連れ帰るつもりだということですか」
「一時的な対処を取ってることからして、そうだろうね」
長とは対照的に、ジラフがのんびりと答える。
「今になって、それは困ります! それでは村が立ち行かなくなる」
「そうだね。国には魔物素材の製品が多く出回っている。大半を占めているといっていい。それが無くなったなら、イスカの村どころか、すべての国民の生活が立ち行かなくなるかもしれないね」
「……」
俺は台詞の割りに緊張感の感じられないジラフに、眉を顰めた。
そして、はたと気付く。すべての国民の生活が立ち行かなくなるかもしれないと言いつつも、実際には近く立ち行かなくなるのは辺境だけなのではないか。在庫を王都に集中させ、それらが無くなる前に代替品を用意すればいいとでも考えているのではないか。
(まずい。ジラフはすぐにでも王都からの搬出を止めるに違いない)
かといって、ここで言わなかったなら、その代替品の研究もなされないままに、魔物素材が手に入らない時代を迎えてしまっていただろう。
(畜産業を復活させるべきか)
昔は当たり前だった、イスカの村の風景を思い浮かべる。かつて村では、多くの動物を飼っていた。しかし、魔物素材が普及するにつれて、畜産に携わる者は激減した。
飼っている動物が子を出産し、その子をまた育て。畜産は多くの時間を費やす。
一方魔物は、すべてがそうではないが大気中の元素が凝り固まって『発生』する。既に肉や皮などが取れる成体が、環境さえあれば放っておいても増えるのだ。
魔物素材の調達には、時間も手間も必要無い。勿論、狩るための準備はいるのだろうが。それでも掛かるコストは、畜産とは雲泥の差だ。
(だが、魔物素材が無くなれば、畜産業者から買うしかなくなる)
要るなら高値でも買うだろう。そして高値で売れるなら、取り扱う人間も増える。
すぐには無理でも、時間を掛けて普及させて行けば、価格も安定してくるはずだ。
「――魔王を倒すしかあるまい」
「……は?」
村の今後の在り方について考え込んでいた俺は、長の言葉に反応し損ねた。
俺の肩に置かれた長の手に、遅れて思考が付いてくる。
「! 私にあの剣を……抜けというのですか⁉」
長の言わんとすることがわかり、俺は思わず後退った。
「お前の一族の血に眠る、英雄の力。それを使うしか、あるまい」
俺の肩から離れた長の手が、俺を指差す。
ゾクリと、肌が粟立った。
俺に意向を尋ねているのではない。そうするべきだと、それが正しいことでありその他は間違いなのだと、長はそう言っている。
「それは……しかし……」
確かに、魔物が消えなければ解決する。問題が起こらないのだから。
何事も無かったかのように、人々は生活して行く。
――俺が手に掛ける者、以外は。
「一時的な対処を取ってることからして、そうだろうね」
長とは対照的に、ジラフがのんびりと答える。
「今になって、それは困ります! それでは村が立ち行かなくなる」
「そうだね。国には魔物素材の製品が多く出回っている。大半を占めているといっていい。それが無くなったなら、イスカの村どころか、すべての国民の生活が立ち行かなくなるかもしれないね」
「……」
俺は台詞の割りに緊張感の感じられないジラフに、眉を顰めた。
そして、はたと気付く。すべての国民の生活が立ち行かなくなるかもしれないと言いつつも、実際には近く立ち行かなくなるのは辺境だけなのではないか。在庫を王都に集中させ、それらが無くなる前に代替品を用意すればいいとでも考えているのではないか。
(まずい。ジラフはすぐにでも王都からの搬出を止めるに違いない)
かといって、ここで言わなかったなら、その代替品の研究もなされないままに、魔物素材が手に入らない時代を迎えてしまっていただろう。
(畜産業を復活させるべきか)
昔は当たり前だった、イスカの村の風景を思い浮かべる。かつて村では、多くの動物を飼っていた。しかし、魔物素材が普及するにつれて、畜産に携わる者は激減した。
飼っている動物が子を出産し、その子をまた育て。畜産は多くの時間を費やす。
一方魔物は、すべてがそうではないが大気中の元素が凝り固まって『発生』する。既に肉や皮などが取れる成体が、環境さえあれば放っておいても増えるのだ。
魔物素材の調達には、時間も手間も必要無い。勿論、狩るための準備はいるのだろうが。それでも掛かるコストは、畜産とは雲泥の差だ。
(だが、魔物素材が無くなれば、畜産業者から買うしかなくなる)
要るなら高値でも買うだろう。そして高値で売れるなら、取り扱う人間も増える。
すぐには無理でも、時間を掛けて普及させて行けば、価格も安定してくるはずだ。
「――魔王を倒すしかあるまい」
「……は?」
村の今後の在り方について考え込んでいた俺は、長の言葉に反応し損ねた。
俺の肩に置かれた長の手に、遅れて思考が付いてくる。
「! 私にあの剣を……抜けというのですか⁉」
長の言わんとすることがわかり、俺は思わず後退った。
「お前の一族の血に眠る、英雄の力。それを使うしか、あるまい」
俺の肩から離れた長の手が、俺を指差す。
ゾクリと、肌が粟立った。
俺に意向を尋ねているのではない。そうするべきだと、それが正しいことでありその他は間違いなのだと、長はそう言っている。
「それは……しかし……」
確かに、魔物が消えなければ解決する。問題が起こらないのだから。
何事も無かったかのように、人々は生活して行く。
――俺が手に掛ける者、以外は。