トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「カシムが魔物の街を見つけたのも、運命の導きって奴かもね。最小限の犠牲で、世界を救う。勇者の一族の使命だよ、これは」
ジラフが楽しげに、ポンッと手を打つ。
言い方からして、彼は俺の一族の覚醒条件を知っているのだろう。
(最小限の犠牲、だと?)
先程感じた恐怖心が、今度は怒りに変わる。
俺は無意識のうちに、腰の短剣に手を掛けていた。
揺れた紐飾りが、俺の指に触れる。
「それでね、異世界召喚という技術があるんだよ」
俺の心中を知ってか知らずか、ジラフは不敵に笑って言った。
「カシムはまだ未婚だろ? 異世界召喚は、君の一族に適合する者を呼べるというよ。だから、それで妻となる者を呼び出せばいい。確か先代魔王を倒した君の先祖も、それで最初の妻を娶ったはずだ」
「⁉」
世間話でもするように言ったジラフの言葉に、衝撃を受ける。
その言い様はまるで――
「カシムも魔王を倒した後は、改めて家庭を築く相手と再婚すればいい。召喚に必要な触媒、魔術式は僕が用意してあげるよ」
「異世界人を、殺すために……喚ぶのですか」
わかりきったことと思いながらも、俺はそれを口にした。
口の中が乾いている。
ジラフを見ているはずが、自分が何を見ているのかがわからない。
俺たちは一体、何の話をしているのだろうか?
魔王が俺たちの生活を脅かす。だから、討伐する。
それは正義で。
正義のために、人間を、殺す……?
「なら、エリスを殺す? 僕はそれでも構わない」
「……っ」
呼吸が止まる。
急速に、目の焦点が合う。
先程とは逆に、今度は思考が停止する。
「迷う余地なんてないじゃないか。エリスを殺すか、異世界人を消すか」
「消す……」
彼の言葉を繰り返した俺に、ジラフが無邪気に笑う。
今まで心臓まで止まっていたのかと思うほど、ドクドクと全身に血が流れるのを感じる。
俺に「そうだよ」と、赤い目を細めて悪魔が囁く。
「君は異世界人は『殺す』んじゃない。元から無かったものを『消す』だけさ」
パチッ
焚火の火が爆ぜる音に、我に返る。
辺りは既に、夜の闇に包まれていた。今日という日が、終わろうとしている。
俺は手にしていた短剣を、鞘に収めた。
短剣の柄にも鞘にも装飾一つ無いことに、「味気ないから」と手編みの紐飾りをくれたエリスを思い出す。
「ここで成果を上げなければ、後が無い……」
痺れを切らした王家は、本格的に村に圧力を掛けてくるだろう。そうなれば、俺の代わりにエリスが責められる。
魔王は予想通り火山の暴走を抑えに行き、その際に魔物の街――カルガディウムの結界に、若干の弱まりが見られたという報せがあった。
奴の魔力が回復しないうちに他の精霊も暴走させ、そちらにも力を割かせれば、俺が竜殺しの剣を抜けなくとも勝機はあるはずだ。
『やらねばならないことより、やりたいことを選びたいんじゃないのか』
いつか聞いた魔王の言葉が、ふと蘇る。
「そうだ……だから俺は、魔王を倒す」
短剣の柄を額に当て、瞼を閉じる。
紐飾りが、優しく俺の頬をくすぐった。
「俺が望むのは……エリス、お前と平穏に暮らしたい。ただ、それだけだ……」
ジラフが楽しげに、ポンッと手を打つ。
言い方からして、彼は俺の一族の覚醒条件を知っているのだろう。
(最小限の犠牲、だと?)
先程感じた恐怖心が、今度は怒りに変わる。
俺は無意識のうちに、腰の短剣に手を掛けていた。
揺れた紐飾りが、俺の指に触れる。
「それでね、異世界召喚という技術があるんだよ」
俺の心中を知ってか知らずか、ジラフは不敵に笑って言った。
「カシムはまだ未婚だろ? 異世界召喚は、君の一族に適合する者を呼べるというよ。だから、それで妻となる者を呼び出せばいい。確か先代魔王を倒した君の先祖も、それで最初の妻を娶ったはずだ」
「⁉」
世間話でもするように言ったジラフの言葉に、衝撃を受ける。
その言い様はまるで――
「カシムも魔王を倒した後は、改めて家庭を築く相手と再婚すればいい。召喚に必要な触媒、魔術式は僕が用意してあげるよ」
「異世界人を、殺すために……喚ぶのですか」
わかりきったことと思いながらも、俺はそれを口にした。
口の中が乾いている。
ジラフを見ているはずが、自分が何を見ているのかがわからない。
俺たちは一体、何の話をしているのだろうか?
魔王が俺たちの生活を脅かす。だから、討伐する。
それは正義で。
正義のために、人間を、殺す……?
「なら、エリスを殺す? 僕はそれでも構わない」
「……っ」
呼吸が止まる。
急速に、目の焦点が合う。
先程とは逆に、今度は思考が停止する。
「迷う余地なんてないじゃないか。エリスを殺すか、異世界人を消すか」
「消す……」
彼の言葉を繰り返した俺に、ジラフが無邪気に笑う。
今まで心臓まで止まっていたのかと思うほど、ドクドクと全身に血が流れるのを感じる。
俺に「そうだよ」と、赤い目を細めて悪魔が囁く。
「君は異世界人は『殺す』んじゃない。元から無かったものを『消す』だけさ」
パチッ
焚火の火が爆ぜる音に、我に返る。
辺りは既に、夜の闇に包まれていた。今日という日が、終わろうとしている。
俺は手にしていた短剣を、鞘に収めた。
短剣の柄にも鞘にも装飾一つ無いことに、「味気ないから」と手編みの紐飾りをくれたエリスを思い出す。
「ここで成果を上げなければ、後が無い……」
痺れを切らした王家は、本格的に村に圧力を掛けてくるだろう。そうなれば、俺の代わりにエリスが責められる。
魔王は予想通り火山の暴走を抑えに行き、その際に魔物の街――カルガディウムの結界に、若干の弱まりが見られたという報せがあった。
奴の魔力が回復しないうちに他の精霊も暴走させ、そちらにも力を割かせれば、俺が竜殺しの剣を抜けなくとも勝機はあるはずだ。
『やらねばならないことより、やりたいことを選びたいんじゃないのか』
いつか聞いた魔王の言葉が、ふと蘇る。
「そうだ……だから俺は、魔王を倒す」
短剣の柄を額に当て、瞼を閉じる。
紐飾りが、優しく俺の頬をくすぐった。
「俺が望むのは……エリス、お前と平穏に暮らしたい。ただ、それだけだ……」