トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「しかし、最近世間が騒がしいの。人間が暴れて(ほこら)は壊しまくるわ、エセ精霊は侵入してくるわ」

 光の精霊が一息に喋って、またレタスに(かじ)り付く。

「人工精霊がここに来たのか。どんな奴だった?」
「白い鷹じゃったな」
「王家が飼ってるあれか」
「あ、王都で見かけました。伝書に使われているみたいでした。あれが人工精霊だったんですね」

 私の目には何かの白い物体にしか映っていなかったが、シナレフィーさんがそう言っていたので間違いないだろう。

「正確には、器に人工精霊が入ってる形だろうけどな。精霊なら千里を飛んでも疲れ知らず、加えて余程のことがない限り死なない。重要な連絡役として最適だ」
「ワシらと似ておるあやつらは、ここの結界に干渉できてしまう厄介な存在よ。ところで魔王は、祠の代わりを造りに来たのじゃろ? ついでに、エセ精霊が穴を空けた結界も直して行け」
「サラ」

 光の精霊の食事風景に釘付けになっていた私は、呼ばれてギルを振り返った。
 途端、(あご)を指でくいっと持ち上げられ、
 ギルの唇がチュッと来て、
 ムチュッとなって、
 最後にペロっと舐められて、それは離れた。

「キスの時間だ」
「自由か!」

 光の精霊による秒のツッコミに、「同感です」と私は心の中で頷いた。
 でも、ギルとそうしたくて私は付いてきたわけで。同感の前に同罪ですね、はい。

「で、結界の穴って、どの辺りなんだ」
「涼しい顔で会話を再開しよって。――闇がいる森のどこかじゃな」
「あそこか」

 ギルが一度、ちらりと遠くを見遣る。

「あそこは日が暮れないと本当の姿を現さないから、後回しだな」
「祠じゃが、風のと水のは壊される前から出掛けたきり帰って来とらんので、急がなくて良いじゃろ。土の奴を見舞ってくれるか。あやつは祠が気に入っておったから、しょげておる。ワシたちは本来、特定の住処など必要としないが、それでも長くいると愛着は湧くんじゃ」
「土のは、祠があった場所の近くにいるのか?」
「多分の」
「あの行くのが面倒なところか……」

 見るからに嫌そうな顔をしたギルが、片手でガシガシと頭を掻く。
 飛べるギルがその反応なんて、一体どれほどの悪路なのか。同行が彼の負担になりそうなら、私は大人しくお留守番をした方が良さそうだ。

「暴れ回っておるのが勇者の子孫なら、ワシの祠には手を出さんはずじゃ。あれはワシの力の影響が大きいからの。だからこっちは気にせず、存分にうろうろしに行くがよいわ」

 ちょっと悪い顔になった光の精霊が、巨石の上でピョンピョン跳ね回る。それから彼(?)は藁の寝床に飛び降り、そこで丸くなった。
 すやぁ
 一瞬でおやすみである。あなたも自由か。
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