トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~

強制送還

「しかし、この短期間に幾つも(ほこら)がやられるなんて。造りが脆すぎないか?」

 サンドウィッチを食べ終えたギルが、林檎を(かじ)りながら言う。
 シャクシャク

「仕方ねぇだろ。祠は壊されることを想定してねぇし」

 ツッチーがそれに対し、ナッツを食べながら答える。
 ポリポリ
 『ツッチー』は土の精霊の愛称で、彼(?)にお願いされ私が決めた。ギルガディスへの『ギル』呼びが羨ましかったらしい。何だろう、このデジャヴ。

「おれっちたちは、あくまで力でしかないから自衛も無理だしよ。本当、何なんだよ、あいつ。祠は壊しまくるし、空き家は()(さが)ししまくるし!」

 カシムは家探しもしていたのか。ああ、うん。『勇者』だし、するかもね……。

「精霊は魔法とかって、使えないんですか?」

 私はツッチーに尋ねて、それから食べている途中だったサンドウィッチの残り全部を口に入れた。
 モゴモゴ

「おれっちたちだけじゃ無理だな。憑依するにしろ呼び掛けに応えるにしろ、実際に力を振るう奴が要る。どんなに切れ味の良い剣でも、使い手がいなけりゃただの置物なのと同じだ」
「力と言えば、力が暴走した割りには異変が見られないな」

 林檎も食べ終えたギルが、上唇を舐めながら辺りを見回す。

(そう言えば、火の精霊の時は溶岩が広がって大変だったとか言ってたっけ)

 私もぐるりと周りを見てみた。
 私たちがいる高台の花畑の花は、どれも綺麗に咲き誇っている。座っている倒木を除いて、周りの木々が枯れたり傷付いたりしている様子も見られない。

「それが、勢い余って遠くまで飛んじまって」

 ツッチーが次のナッツをその場に置いて、木桶の縁にチョンと飛び乗る。そして彼(?)は、高台から見下ろせる森を指差した。

「向こうの森、そっちの地面が(えぐ)れたと思う」
「何だって⁉ そこは闇の森じゃないか。――まずいな」
「あ、やっぱり? めっちゃ怒るだろうな、闇の奴……」
「そうじゃない。日が暮れた時にカシムがその場にいたなら、目の前で突然地形が変わったなら、森のカラクリに勘付かれる」
「カシムって、おれっちの祠を壊した奴のこと? げっ」
「俺は闇の祠を見に行く。サラは光の精霊のところで待っていてくれ。勇者の能力の大半は光の力が関わってくる、カシムは光の祠は狙わないはずだ。――行ってくる」

 矢継ぎ早に言いながら立ち上がったギルが、高台に向かって駆けて行き、そのまま飛び降りる。
 彼が飛べることを知っていても、思わずぎょっとしてしまい、私は立ち上がった。
 見下ろそうとした私の視線は、逆に見上げることになる。ギルはこの間目にした銀の竜の姿に変わっていた。
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