トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「お嬢ちゃん、無事かっ」
ギルの肩からツッチーが顔を覗かせる。
ギルが闇の領域から戻って来ているのは、ツッチーが呼びに行ってくれたのだろうか。
「無事です、ありがとう! ――カシムは⁉」
ハッとして、私はカシムを振り返った。
私のやや上方を睨み付けた彼の姿が、目に入る。
カシムの注意はもう、すべてギルに向けられているようだった。
そのことに、胸を撫で下ろす。
と、同時にその『胸』の辺りがスースーとしている現状に気付いた。
(わ、わ、わ)
胸部は辛うじて隠れているものの、そこから下は散々たるものだ。お臍も下着もバッチリ見えている。
私は慌てて、裂けた服の端を掻き合わせた。両手だけではカバーしきれず足は露出したままだが、背に腹はかえられない。
「……サラ?」
落ち着きのない私の動きを不審に思ったのが、ずっとカシムと対峙していたギルが私を見てきた。
(セ、セーフ……)
何とかあのとんでもない格好は見られずに済んだ。
そうホッとしたのも束の間――
「ちょっ、待て、馬鹿魔王!」
何故か突然ツッチーが大声を上げ、
「わぷっ」
そして彼(?)の大きな尻尾が、私の両目を覆った。
直後――
「ぐあぁあああああああ‼」
森にカシムの絶叫が響き渡る。――何かが拉げるような異様な音とともに。
「な、何? どうなってるの?」
見えなくとも、カシムが地面にのたうち回っているのがわかる。彼をそうさせているのが、ギルだということもわかる。
やがてカシムが立てる音は小さくなり――ついにそれは、完全に消えた。
「え……何、ど、どうなったの? カシムは……?」
明らかにおかしな静けさに怖くなり、私はギルの顔があるだろう位置へ顔を向けた。
ツッチーの尻尾は、未だに私の目を覆い隠している。
カシムの悲鳴は尋常ではなかった。
背筋が凍る……そう、まるで断末魔のような。
「……もうここにはいない。多分、王都に強制送還されている」
「強制……送還?」
もしかして「死んだ」と言われるのでは。そう身構えていた私は、ギルの返答に少しだけ力が抜けた。
私の背を支えるギルの手が、そうしたまま私の後ろ頭を彼の方に引き寄せる。私の視界がギルの胸だけになる。ツッチーの尻尾が取り払われても、私はカシムを振り返ることが叶わなかった。
隠された視界でも、無かったはずの鉄錆の匂いは届く。私は血溜まりを想像して、慌ててそれを振り払った。
「一旦、魔王城に戻る。サラはそっちで待っていてくれ。後は俺だけで、ここの用事を済ませるから」
「うん……」
ギルの胸に視界が固定されたままで、森の中を運ばれる。ギルの腕の中で、私は徐々に落ち着きを取り戻していった。
程なくして身体の震えが収まる。だから私は、そこで気付いた。
(ギルが震えている)
カシムを攻撃したくらいだから、怒りからかもしれない。けれど私はどうしてか、それが『不安』からだと確信めいたものがあった。
無意識に、彼の腕に手を伸ばしていた。
伸ばして、私は触れる前に思い留まった。平然を装って話していたギルは、きっとそのことを隠したいはず。
「――ギル。助けてくれて、ありがとう」
「あ、ああ……」
今、あなたはどんな表情をしているのだろう。
私は、顔の見えない彼に尋ねたかった。
ギルの肩からツッチーが顔を覗かせる。
ギルが闇の領域から戻って来ているのは、ツッチーが呼びに行ってくれたのだろうか。
「無事です、ありがとう! ――カシムは⁉」
ハッとして、私はカシムを振り返った。
私のやや上方を睨み付けた彼の姿が、目に入る。
カシムの注意はもう、すべてギルに向けられているようだった。
そのことに、胸を撫で下ろす。
と、同時にその『胸』の辺りがスースーとしている現状に気付いた。
(わ、わ、わ)
胸部は辛うじて隠れているものの、そこから下は散々たるものだ。お臍も下着もバッチリ見えている。
私は慌てて、裂けた服の端を掻き合わせた。両手だけではカバーしきれず足は露出したままだが、背に腹はかえられない。
「……サラ?」
落ち着きのない私の動きを不審に思ったのが、ずっとカシムと対峙していたギルが私を見てきた。
(セ、セーフ……)
何とかあのとんでもない格好は見られずに済んだ。
そうホッとしたのも束の間――
「ちょっ、待て、馬鹿魔王!」
何故か突然ツッチーが大声を上げ、
「わぷっ」
そして彼(?)の大きな尻尾が、私の両目を覆った。
直後――
「ぐあぁあああああああ‼」
森にカシムの絶叫が響き渡る。――何かが拉げるような異様な音とともに。
「な、何? どうなってるの?」
見えなくとも、カシムが地面にのたうち回っているのがわかる。彼をそうさせているのが、ギルだということもわかる。
やがてカシムが立てる音は小さくなり――ついにそれは、完全に消えた。
「え……何、ど、どうなったの? カシムは……?」
明らかにおかしな静けさに怖くなり、私はギルの顔があるだろう位置へ顔を向けた。
ツッチーの尻尾は、未だに私の目を覆い隠している。
カシムの悲鳴は尋常ではなかった。
背筋が凍る……そう、まるで断末魔のような。
「……もうここにはいない。多分、王都に強制送還されている」
「強制……送還?」
もしかして「死んだ」と言われるのでは。そう身構えていた私は、ギルの返答に少しだけ力が抜けた。
私の背を支えるギルの手が、そうしたまま私の後ろ頭を彼の方に引き寄せる。私の視界がギルの胸だけになる。ツッチーの尻尾が取り払われても、私はカシムを振り返ることが叶わなかった。
隠された視界でも、無かったはずの鉄錆の匂いは届く。私は血溜まりを想像して、慌ててそれを振り払った。
「一旦、魔王城に戻る。サラはそっちで待っていてくれ。後は俺だけで、ここの用事を済ませるから」
「うん……」
ギルの胸に視界が固定されたままで、森の中を運ばれる。ギルの腕の中で、私は徐々に落ち着きを取り戻していった。
程なくして身体の震えが収まる。だから私は、そこで気付いた。
(ギルが震えている)
カシムを攻撃したくらいだから、怒りからかもしれない。けれど私はどうしてか、それが『不安』からだと確信めいたものがあった。
無意識に、彼の腕に手を伸ばしていた。
伸ばして、私は触れる前に思い留まった。平然を装って話していたギルは、きっとそのことを隠したいはず。
「――ギル。助けてくれて、ありがとう」
「あ、ああ……」
今、あなたはどんな表情をしているのだろう。
私は、顔の見えない彼に尋ねたかった。