トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「シナレフィー、お前っ。これどういう状況⁉」

 シナレフィーさんの予想通りのタイミングで戻ってきたギルは、前庭で『捕縛』されていた。
 魔王を捕縛する魔法なんて、勇者側は喉から手が出るほど欲しい技術だろう。……これを技術と呼んでいいのか、謎ではあるが。

『お帰りなさい、ギル』
『ギル、会いたかったです』
「何でサラが三人も⁉」

 ギルは片腕ずつ、『私』に拘束されていた。三人目の私(本物)は、ギルの正面に、真後ろにシナレフィーさんが立つ。完全包囲網である。
 拘束している二人が魔法生物なのはギルにもわかっているだろうし、彼ならきっと幾らでも振り払える。それでもギルは、大人しく捕まってくれていた。

「何でとは、また。この魔法創造したの陛下でしょう」
「ちょっ、本人がいる前でバラすとかっ。そりゃ俺が創ったけど、俺は眺めてただけで触ったことは無かったから!」

 「断じて!」と弁解するギルに、「眺めてた」ことについて詳しく聞きたい。が、それをすると本題が遠のくので、一旦脇に置いておこう。
 私は一歩、ギルに近付いた。そうしたなら、さすがに彼は私を見てきた。
 ギルは、私が次にどう出るか注目している。
 だから私は、

「わっ。サ、サラ⁉」

 ギルの胸に突進し、かつ彼の腰に抱き着いてみた。
 さらに困惑した「だからこれ、どういう状況」というギルの声が私の耳に、あたふたとした様子が私の腕に伝わってくる。期待した通りの反応が嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
 顔を傾けて、頬をギルの胸に付ける。彼の胸に当てた方の耳に、トクトクと早い心音が聞こえた。

(安心する)

 聞いているのは、ギルが生きている音。
 でもそれを聞けるのは、私が同じく生きているから。
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