トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~

『ハナキ』

(え、待って。これどういう状況⁉)

 私はギルの部屋のベッドの中で、ここへ来る直前に聞いた台詞を自分も言う羽目に(心の中で)なっていた。
 隣り合わせで寝ることを添い寝と呼ぶなら、これは添い寝で間違いない。ギルと私は、そうして寝転がっている。
 問題は体勢だ。
 向かい合う形、ここはいい。私の背中を抱き込むギルの腕、まあこれも母親が子供にすることがある。私の足にガッツリ絡んだギルの足、これは違うと思う。違うと思う。大事ことなので二回言いました。

「俺は気付いた。近過ぎれば、それはそれで色々できないと……!」
「そう、ですね?」

 私はギルの胸に顔を(うず)める格好になっているので、彼の顔が見られない。というか身動きが取れない。ギルの言葉通り、色々できない状態になっている。

「あと、この体勢が何気に心地良いことにも気付いた」
(私は抱き枕かな?)

 即座にツッコミを入れつつも、「でも、抱き枕側も悪くないな」と思ってしまったり。
 ドキドキすることを除けば、私もすっぽりとギルに包まれたこの場所の居心地は良い。

(これは、うっかり寝落ちしそう)

 そう思って、それは駄目だとぐっと堪える。
 ギルはまたこの後、闇の精霊を捜しに出掛けるはず。寝て起きたら彼がいないという、寂しい事態は避けたい。

「サラは苦しくないか?」

 駄目だと思いながらも、くぐもったギルの声が子守歌のようで、うつらうつらしてきてしまう。

「大丈夫です。気持ち良い……」
「気持ち良い……」
「ギルの全身を私の全身で感じます……」
「感じる……」

 私の言葉を繰り返すギルが、さらに子守歌となって眠気が増していく。
 駄目、眠りたくない。

「ギル……どうにか、して……」
「どうにか……って、ま、待て、サラ。その前にあったはずの台詞も声にして欲しい」
「ん、眠い」
「早急に対処する!」

 パチンッ
 ギルが返事をすると同時に、私のこめかみの上で指を鳴らす。
 途端、私の意識はハッキリくっきり覚醒した。

「わ、すごい。一気に目が覚めました」
「それは良かった。――って、そもそも午睡に来てたんだった……」

 ギルが「しまった」と呟く。私は、「私の目的はギルの添い寝なので、起こしてもらって良かったです」と額をコツンと彼の胸に当てた。
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