トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「ギルはこの後、また闇の精霊を捜しに行くんですよね。精霊の居場所が特定できないと、やっぱり転移魔法は使えないんですか?」

 気付けばいつの間にやら、こうなる前に提案した『顔を見て話しませんか?』な雰囲気だったので話題転換してみる。
 桃色展開でなくて残念だったような、ほっとしたような。そう思いながらギルを見れば、耳まで赤いくせに平然を装った顔が目に入った。
 思わず、パッと目を逸らす。気恥ずかしさに、私は無意味に両足をパタパタさせた。きっと私は、彼と同じ顔をしているだろうから。

「いや、魔法自体は使える」

 私より先に立ち直ったらしいギルが、落ち着いた声で私の問いに返してきた。

「ただ、魔力の振れ幅が大きくなって、通路が狭くなったり広くなったりするだろうな」

 携帯電話でいうところの、電波はあるけどアンテナが一本しか立ってない、みたいなものだろうか。その状態で電話を掛けたら、大抵途中で切れていた気がする。

「それは止めておいた方がいいですね」

 電話なら改めて掛け直せばいい。けれど、異空間を渡っている途中に道がブツッと切れるとか。それは絶対、御免(こうむ)りたい。

「次は奈落を捜してみるか」
「奈落……」

 『奈落』という仰々しいしい単語。そして、それを険しい表情で口にしたギル。幾ら魔王でも、気軽で行ける場所でないことが察せられる。そんなところへは、できる限り出向いて欲しくない。

「奈落の他には、候補は無いんですか?」
「うーん……他、か。闇の精霊は気難しくて。壊されたあの闇の(ほこら)は、定住するまで百回は改築させられたという噂も聞いたし」
「百回……」

 ツッチーに作ったような、なんちゃって祠ならともかく、森から見える建物なレベルの祠を百回とは。それは確かに、おいそれとは次の定住地は見つからなさそうだ。
 でもギルに、奈落に行って欲しくない。
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