トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「今日からサラ様も計画に参加されるのですか? ふふっ、楽しみですね」

 鈴が鳴るような可愛いらしい声がして、私は正面に目を戻した。
 (きら)めく淡褐色の瞳。同性ですら見惚れるような天使の笑顔が、そこにあった。

(ミアさん……素敵過ぎ。これは竜に拾われるわー)

 つい釣られてこちらまで笑顔になる。あのシナレフィーさんですら、ほんのり表情が和らいでいるのだから、凄まじい威力だ。
 蜂蜜の髪色も(あい)()って、実に神々しい。真っ直ぐ艶やかなそれは、先程から撫でまくっているシナレフィーさんでなくとも触りたくなる。
 私はあまりの()(ばゆ)さに(かざ)しかけた手を、カップを握り直すことで誤魔化した。

「そうだな。正直、人手は多い方が助かる。俺はできるだけ多くの同胞を、無事魔界に連れ帰りたい。サラ、協力してくれるか?」
「はい。私にも協力させて下さい」

 私は即座に頷いた。
 ギルは命の恩人で、彼の障害は私を生け贄にしようとした人間。悩む余地もない。

「ありがとう。同胞は生きてさえいてくれれば、俺が魔界から一気に回収することが可能なんだ。とは言っても、俺の呼び掛けに応えてくれた者に限るけど。中にはそのまま人間との暮らしを望む奴もいるから。特に兎族や猫族なんかには、その傾向が強いな」

 小動物で可愛い系の魔物か。
 兎から竜までいる魔物社会なら、そういったこともあるかもしれない。そして彼等が人間の傍の方がいいということは、どうやらここの世界でも『可愛いは正義』のようである。

「俺が向こうから回収出来るのは、魔族と魔物だけ。だから、サラは転移の際に俺から離れないでくれ。ミアはシナレフィーが連れて行く」
「わかりました」
「さて、オーブはイスカの村か……あそこは小規模だし、どうにか持ち出せればな……」
「いえ、陛下。オーブの奪還は触媒が集まった後にした方が良いかと。狙いがオーブと知れると、転移魔法の触媒集めを妨害されるかもしれません」
「そうか。それもそうだな」

 シナレフィーさんの推測に、ギルが「ふむ」といった感じで、指で顎を撫でる。

「とは言え、先程報告したように、触媒集めは難航しています。当初はミアが育てているものがすべて収穫出来た時点で揃う予定でしたが……現状だと、計画に遅れが出るのは必至ですね」
「ようやく半分だからな。先代がいなくなって、人間が急増したせいでやりにくいったらない。あんな辺境にまで住んでいるなんて」
「私はミアと無関係の人間なら、ごっそり減らしてもいいですよ」
「そうなったら、死んだ奴らと無関係の人間も、お前と無関係の魔物を殺すだろうな」
「まあ、そうなるでしょうね。私が人間を殺してみせても、目撃した人間はその場は逃げて、別の魔物で(うつ)(ぷん)を晴らすでしょうから。面倒なことです」
「そうそう。だから却下な」

 ミアさんの髪を(すく)って弄んでいたシナレフィーさんを、ギルがビシッと指差す。
 ねぇ。
 今、とても不穏な意見が、さらりと出ていた気がするのだけど。
 数時間前の、初顔合わせを思い出す。
 シナレフィーさんの第一印象は、あながち間違いでもなかったらしい。彼は妻以外の人間には、やはり容赦無さそうだ。
 こうなるとギルの「俺の嫁」発言は余計どころか、最重要だった。あれがあったからこそ、私の身の安全が保障されたと言えよう。

「サラ。転移のオーブは魔王のいる世界に付いてくる。だから俺たちが魔界に戻った後なら、そこからお前の世界に送ることも可能だ」
「私、戻れるんですか?」
「人間に扱えて、俺にできないはずないだろう」

 自信ありげに言うギルに、それもそうだと納得する。
 元より助力は惜しまないつもりではあったが、そうなると俄然やる気が出て来るというもの。自分のゲーム知識が、役立てられないだろうか。
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