トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
 カチャッ
 直通の扉があるのに、わざわざギルは廊下から私の部屋へ入り直してくれた。
 「内扉はサラの許可が下りるまで開けない」。そう言ったギルに律儀な人だと思い、その直後に『許可』の意味に気付いた私は、思わず赤面した。
 両手で両頬をむにむにする。むにむにしたから赤いのだ、そう勘違いして早く治るのだ、私の頬よ。
 ……さて。
 これは私の部屋ということで、ノックをしなかったのがいけなかったのだろう。

「……リリ?」

 私たちは、部屋の中央にある()(たつ)で寝転がっていたリリと鉢合わせた。ぐでっと溶けたように寛いでいた、彼女と。

「サ、サラ様!」

 私の姿を認めたリリが、見事な早技でシュバッと正座の姿勢に替わる。

「ここここれはですねっ、サラ様が好きな温かみをわかりみたいと……っ」
「う、うん。入ってていいよ? いいからね。わかりみ大事、うん」

 八の字眉で慌てて言い訳をし出したリリに、私も釣られて早口で言い返す。
 私の横で「『わかりみ』って何だ」と呟いたギルに「共感、ですかね」と返してから、私はリリに近寄った。座り込んだ彼女の隣へ、同じように正座で座る。
 目線が近くなったリリと目を合わせ、私はその頭をポンポンと撫でてあげた。
 リリが、ふにゃっと笑う。頭なでなで癒やされるよね。さっきまで私もされていたから、これは私がリリにわかりみ。

「ちょっと、ごめんね」

 私はリリが落ち着いたのを見て、当初の目的である炬燵の布団に手を掛けた。そのまま布団の端を、天板の上へと持ち上げる。
 ペラッ

「にゃん」
「いた!」

 猫。黒猫がいた。でもって「にゃん」て鳴いた!

「あっ、待って!」

 喜んだのも束の間、黒猫はタタッと駆け出して廊下の外へ。ギルも突然のことで対応仕切れなかったのか、彼の足元を黒猫は擦り抜けていった。

「えっ、何、闇のがいたのか⁉」

 ギルは驚愕の表情で出入口から廊下を振り返り、「見失った」と一言。

「闇の精霊が自ら捕獲されにくるなんて……コタツ、何て恐ろしい魔物!」

 リリに至っては、炬燵を凝視して震えている。
 うん、ここは彼(?)に頼るしかない。

「魔王城さん、いますか?」

 私は適当な天井に向かって呼び掛け、一拍置いて返ってきた『おー』という(テレパシー)の方向に手を振ってみせた。
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