トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
王家の文字
「ギル、次はそこを右ですっ」
「わかった」
魔王城の廊下をギルが滑走する。その背に私はおぶられていた。
魔王城から闇の精霊の大体の位置を聞き、つい先程ミニマップでイベントマーカーを捕捉したところだ。
ところでギルの走る速度は車並みなのだけど、それより遅いとはいえどんな俊足猫だ闇の精霊は。某有名アニメでバスになっているアレの親戚か何かなのか。
「いた!」
角を曲がった直後にギルが叫ぶ。私にはまだ視認できないが、確かにマップ上では今いる長い直線廊下上にイベントマーカーが光っている。
黒猫は観念したのか、その場を動かない。やがて私でも目視できるほど距離が縮まって――
「⁉ ギル! 止まって!」
黒猫まで二メートル程度という位置で、私はギルの肩に回した両手にギュッと力を入れた。
「……っ」
私の声に、ギルが急ブレーキを掛ける。
およそ走っていた人が止まったのとは思えない音が廊下に響き――
ドゴーンッ
次いでそれ以上耳慣れない音とともに、私の目の前の床一メートル四方が崩落した。
「……」
「……」
私もギルも、空いた大穴を思わず覗き込む。
床が凹んで足を取られる罠とか、そんな可愛いものじゃない。階下が見えています、綺麗に見えています。
「……こんな罠あったのか」
ボソッと呟くギル。やっぱり知らなかったとか、家主! しっかり!
私は直ぐさまミニマップを確認した。案の定、さっき一瞬見えた『!』マークだった場所の地形が変わっていた。
「気付けて良かった……」
「何よ、落ちなかったの。つまんないの」
大穴を挟んだ向かい側、ツンとすましたような声。
私とギルは、また揃ってそちらに目を向けた。
細くて長い尻尾をパタパタ動かしながら、前足で顔を洗う黒猫。和む風景……と言いたいところだが、今の声の主は間違いなく彼女(?)だろう。
「折角、こんな面白いものがあるのに。遊んでくれたっていいじゃない」
いやいやいやいや。遊ぶという次元じゃないですから、その穴。良くて大怪我、悪けりゃ死にますから。
「いきなり落下したらサラがびっくりするから駄目だ」
びっくりするしないの問題なことに、私はびっくりです。
「えー。それくらいアタシに付き合ってくれたって――うにゃん⁉」
やはりツンツンした感じで喋り続けていた闇の精霊から、突然悲鳴が上がる。ついでに彼女(?)の身体も物理的に持ち上がる。――背後から現れたシナレフィーさんに、首根っこを掴まれて。
「捕獲しました」
「にゃあ!」
「……何か?」
「にゃ、にゃあ……」
シナレフィーさんの一睨み。それだけでジタバタしていた闇の精霊は大人しくなり、彼の手にぷらんとぶら下がった。
もうこの人が魔王でいいんじゃないかな……いや決してギルが駄目魔王とは言わないけれども、何となく。
「陛下は妃殿下が誘導していたようだったので、私は魔王城と組んだんですよ。巧い具合に挟撃できたようですね」
シナレフィーさんが反転し、闇の精霊をぷらんぷらんさせながら歩き出す。
私を乗せたギルは、水溜まりでも飛び越えるかのように大穴を楽々と飛んで、その後を追った。
「わかった」
魔王城の廊下をギルが滑走する。その背に私はおぶられていた。
魔王城から闇の精霊の大体の位置を聞き、つい先程ミニマップでイベントマーカーを捕捉したところだ。
ところでギルの走る速度は車並みなのだけど、それより遅いとはいえどんな俊足猫だ闇の精霊は。某有名アニメでバスになっているアレの親戚か何かなのか。
「いた!」
角を曲がった直後にギルが叫ぶ。私にはまだ視認できないが、確かにマップ上では今いる長い直線廊下上にイベントマーカーが光っている。
黒猫は観念したのか、その場を動かない。やがて私でも目視できるほど距離が縮まって――
「⁉ ギル! 止まって!」
黒猫まで二メートル程度という位置で、私はギルの肩に回した両手にギュッと力を入れた。
「……っ」
私の声に、ギルが急ブレーキを掛ける。
およそ走っていた人が止まったのとは思えない音が廊下に響き――
ドゴーンッ
次いでそれ以上耳慣れない音とともに、私の目の前の床一メートル四方が崩落した。
「……」
「……」
私もギルも、空いた大穴を思わず覗き込む。
床が凹んで足を取られる罠とか、そんな可愛いものじゃない。階下が見えています、綺麗に見えています。
「……こんな罠あったのか」
ボソッと呟くギル。やっぱり知らなかったとか、家主! しっかり!
私は直ぐさまミニマップを確認した。案の定、さっき一瞬見えた『!』マークだった場所の地形が変わっていた。
「気付けて良かった……」
「何よ、落ちなかったの。つまんないの」
大穴を挟んだ向かい側、ツンとすましたような声。
私とギルは、また揃ってそちらに目を向けた。
細くて長い尻尾をパタパタ動かしながら、前足で顔を洗う黒猫。和む風景……と言いたいところだが、今の声の主は間違いなく彼女(?)だろう。
「折角、こんな面白いものがあるのに。遊んでくれたっていいじゃない」
いやいやいやいや。遊ぶという次元じゃないですから、その穴。良くて大怪我、悪けりゃ死にますから。
「いきなり落下したらサラがびっくりするから駄目だ」
びっくりするしないの問題なことに、私はびっくりです。
「えー。それくらいアタシに付き合ってくれたって――うにゃん⁉」
やはりツンツンした感じで喋り続けていた闇の精霊から、突然悲鳴が上がる。ついでに彼女(?)の身体も物理的に持ち上がる。――背後から現れたシナレフィーさんに、首根っこを掴まれて。
「捕獲しました」
「にゃあ!」
「……何か?」
「にゃ、にゃあ……」
シナレフィーさんの一睨み。それだけでジタバタしていた闇の精霊は大人しくなり、彼の手にぷらんとぶら下がった。
もうこの人が魔王でいいんじゃないかな……いや決してギルが駄目魔王とは言わないけれども、何となく。
「陛下は妃殿下が誘導していたようだったので、私は魔王城と組んだんですよ。巧い具合に挟撃できたようですね」
シナレフィーさんが反転し、闇の精霊をぷらんぷらんさせながら歩き出す。
私を乗せたギルは、水溜まりでも飛び越えるかのように大穴を楽々と飛んで、その後を追った。