トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
闇の精霊の捜索が一段落したということで、ミアさんも呼んで久しぶりに四人でお茶の時間と相成った。
とぽぽっ
急須を手に、私は四人分の湯飲みに緑茶を注いでいく。食堂のテーブルが炬燵に替わっていた時点で十分突っ込んだので、もうお茶については凪いだ気持ちで淹れている。
多分、炬燵は、ギルかシナレフィーさんが「自分も入ってみたいな」とでも思ったのだろう。魔王城は本当、気配り上手で仕事が早いと思う。何と蜜柑まで籠盛りで用意してあった。しかもすべてレアな葉付き。その徹底した仕事ぶり、脱帽である。
コトッ
私の左にギル、正面にミアさん、右にシナレフィーさん。私は、それぞれの目の前に茶が入った湯飲みを置いていった。
皆、示し合わせたように一口のみ、「ほぅっ」と一息。シナレフィーさんでさえそうなるのだから、炬燵マジック恐るべし。
「さて、思わぬところで、魔王城の一部を精霊の村に持ち込む機会が来ましたね。これで私たちが帰るまで、あの辺一帯を魔王城に護ってもらうことができます」
空の湯飲みを天板に戻すと同時に、シナレフィーさんが切り出す。
「あれには、そんな狙いがあったのか……」
同じく湯飲みを天板に置きながら、ギルは感心したように言った……目線は湯飲みのままに。はい、おかわりですね。承りました。
とぽぽっ
「こちらの魔王城の意識は不在になりますが、こちらはこちらで対処しましょう。私たち家族はカルガディウムの街に移るつもりです。最後の触媒も手に入りましたし、私が街で結界の補助と魔法陣の染料作成をしている内に、陛下はオーブの奪還をお願いします」
「そうか、わかった。――ん? 最後の触媒?」
二杯目の緑茶を口にする直前で、ギルが湯飲みを持った手をピタリと止める。
「以前、入荷まで二月かかると言っていなかったか? まだあれから二月なんて経っていないぞ」
「ああ。正確には私の順番が二月後に来るといった言い方でしたので。つまり私ではない者は、それより前に入手できるわけですよ」
「……おい、まさか」
「譲っていただきました。――どうやらゼンが裏から手を回してくれていたようです。風の精霊から伝言とともに、このナズナを受け取りました」
シナレフィーさんが、透明な小袋を取り出す。中には花が一掴みほど入っていた。
ナズナだというそれは、私が知るナズナと同じに見える。もっとも、パンをパンだと受け取っている私の自動翻訳が、ナズナもそうさせているのかもしれないが。
「まともな入手経路だったか……」
「ゼンの祖母は、生前に私が好きだったそうでして」
「ええい、その手のネタはもういい」
面白くないという顔になったギルが、同封されたメッセージカードごとシナレフィーさんから小袋を取り上げる。
恋バナに興味をそそられ、私はギルの手に渡ったカードを目で追った。
そこには、ペン字のお手本のような美しい文字が、紙とのバランスも完璧に書かれていた。
『永久ともいえる時間を生きるあなたに、永久になった彼女の代わりに贈ります』
ゼンさんがこれを書いたのだとすると、書店でシナレフィーさんに言っていた「お父様やお祖父様はお元気かな?」というあれは、表向きの会話だったのか。勇者の情報やら今回の触媒やらを横流しにしている彼だ、こちらの事情はわかっていそうである。
とぽぽっ
急須を手に、私は四人分の湯飲みに緑茶を注いでいく。食堂のテーブルが炬燵に替わっていた時点で十分突っ込んだので、もうお茶については凪いだ気持ちで淹れている。
多分、炬燵は、ギルかシナレフィーさんが「自分も入ってみたいな」とでも思ったのだろう。魔王城は本当、気配り上手で仕事が早いと思う。何と蜜柑まで籠盛りで用意してあった。しかもすべてレアな葉付き。その徹底した仕事ぶり、脱帽である。
コトッ
私の左にギル、正面にミアさん、右にシナレフィーさん。私は、それぞれの目の前に茶が入った湯飲みを置いていった。
皆、示し合わせたように一口のみ、「ほぅっ」と一息。シナレフィーさんでさえそうなるのだから、炬燵マジック恐るべし。
「さて、思わぬところで、魔王城の一部を精霊の村に持ち込む機会が来ましたね。これで私たちが帰るまで、あの辺一帯を魔王城に護ってもらうことができます」
空の湯飲みを天板に戻すと同時に、シナレフィーさんが切り出す。
「あれには、そんな狙いがあったのか……」
同じく湯飲みを天板に置きながら、ギルは感心したように言った……目線は湯飲みのままに。はい、おかわりですね。承りました。
とぽぽっ
「こちらの魔王城の意識は不在になりますが、こちらはこちらで対処しましょう。私たち家族はカルガディウムの街に移るつもりです。最後の触媒も手に入りましたし、私が街で結界の補助と魔法陣の染料作成をしている内に、陛下はオーブの奪還をお願いします」
「そうか、わかった。――ん? 最後の触媒?」
二杯目の緑茶を口にする直前で、ギルが湯飲みを持った手をピタリと止める。
「以前、入荷まで二月かかると言っていなかったか? まだあれから二月なんて経っていないぞ」
「ああ。正確には私の順番が二月後に来るといった言い方でしたので。つまり私ではない者は、それより前に入手できるわけですよ」
「……おい、まさか」
「譲っていただきました。――どうやらゼンが裏から手を回してくれていたようです。風の精霊から伝言とともに、このナズナを受け取りました」
シナレフィーさんが、透明な小袋を取り出す。中には花が一掴みほど入っていた。
ナズナだというそれは、私が知るナズナと同じに見える。もっとも、パンをパンだと受け取っている私の自動翻訳が、ナズナもそうさせているのかもしれないが。
「まともな入手経路だったか……」
「ゼンの祖母は、生前に私が好きだったそうでして」
「ええい、その手のネタはもういい」
面白くないという顔になったギルが、同封されたメッセージカードごとシナレフィーさんから小袋を取り上げる。
恋バナに興味をそそられ、私はギルの手に渡ったカードを目で追った。
そこには、ペン字のお手本のような美しい文字が、紙とのバランスも完璧に書かれていた。
『永久ともいえる時間を生きるあなたに、永久になった彼女の代わりに贈ります』
ゼンさんがこれを書いたのだとすると、書店でシナレフィーさんに言っていた「お父様やお祖父様はお元気かな?」というあれは、表向きの会話だったのか。勇者の情報やら今回の触媒やらを横流しにしている彼だ、こちらの事情はわかっていそうである。