トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
(前の勇者の嫁取りを踏襲……か)
私と同じような状況で、そのまま殺されてしまった見知らぬ同郷の女性が過去にいた。シナレフィーさんが推測した勇者の家系の所業に、私は苦々しい気持ちになった。――二重の意味で。
勇者が覚醒のために殺さなければならないのは、『誰か』であり異世界人に限らない。勇者は天秤に掛けたのだ、同郷の者と異世界人を。そして同郷の方に心を傾けた――今、私がしたように。
『名も無き私の妻よ。お前に愛は与えられないが、代わりに最上の感謝を贈ろう』
不意に、初日に聞いたカシムの台詞が頭を過った。あれは儀式の祝詞ではなく、本当に彼の言葉だったのかもしれない。私が考えるよりも、カシムにとって私――人間の死は重いのかもしれない。
(カシムが他に手がなくてあんな方法を取ったのなら、きっとそこが突破口になる)
私は目を閉じ、腕を組んだ。
(ひとまず、これまでを順に追ってみよう)
トン、トン、トン、トン
組んだ手の指先で、二の腕を叩く。
まず、私が召喚されたのは、今代の勇者カシムを覚醒させるため。
カシムが覚醒を必要としたのは、ギルを倒すため。
ギルを倒すのは、魔物素材前提の生活が成り立たなくなるから。
でもオプストフルクトには本来の、魔物の存在に影響されない生活様式がある。
ところがその知識は、特別な『王家の文字』によって独占されている。けど、知識が書かれた本自体は、書店でお金を払えば購入できる。
本の値段は王都の物価からいって、寧ろ安価だった。王家にしか読めないということで、身内価格なのかもしれない。
(ということは、文字さえ読めればあの膨大な本の知識が誰でも手に入る?)
以前、シナレフィーさんは、きっかけがあれば王家の『特別』は崩れると話していた。自分たちが魔界へ帰ることで、時間とともにそれが起こると。
(それを意図的に起こしてみたら、どうだろう)
読めない文字を読む……外国語を読む。私がそれをするとき、例えば英語を翻訳するときはどうしてた?
(英和や和英辞典……そうだ、辞典)
習っていない外国語でも、辞典があれば単語の組み合わせで何となくは意味は読み取れていた。だったら、ここでも和オプストフルクト辞典――略して『和オプ辞典』を作ればいい。
私は目を開け、炬燵を囲む面々を左から順に見て行った。
「あのっ、聞いて欲しいことがあります」
そして、語りが止まらないシナレフィーさんの口にミアさんが蜜柑を放り込んだ絶好の機会を逃さず、私は素早く手を挙げた。
私と同じような状況で、そのまま殺されてしまった見知らぬ同郷の女性が過去にいた。シナレフィーさんが推測した勇者の家系の所業に、私は苦々しい気持ちになった。――二重の意味で。
勇者が覚醒のために殺さなければならないのは、『誰か』であり異世界人に限らない。勇者は天秤に掛けたのだ、同郷の者と異世界人を。そして同郷の方に心を傾けた――今、私がしたように。
『名も無き私の妻よ。お前に愛は与えられないが、代わりに最上の感謝を贈ろう』
不意に、初日に聞いたカシムの台詞が頭を過った。あれは儀式の祝詞ではなく、本当に彼の言葉だったのかもしれない。私が考えるよりも、カシムにとって私――人間の死は重いのかもしれない。
(カシムが他に手がなくてあんな方法を取ったのなら、きっとそこが突破口になる)
私は目を閉じ、腕を組んだ。
(ひとまず、これまでを順に追ってみよう)
トン、トン、トン、トン
組んだ手の指先で、二の腕を叩く。
まず、私が召喚されたのは、今代の勇者カシムを覚醒させるため。
カシムが覚醒を必要としたのは、ギルを倒すため。
ギルを倒すのは、魔物素材前提の生活が成り立たなくなるから。
でもオプストフルクトには本来の、魔物の存在に影響されない生活様式がある。
ところがその知識は、特別な『王家の文字』によって独占されている。けど、知識が書かれた本自体は、書店でお金を払えば購入できる。
本の値段は王都の物価からいって、寧ろ安価だった。王家にしか読めないということで、身内価格なのかもしれない。
(ということは、文字さえ読めればあの膨大な本の知識が誰でも手に入る?)
以前、シナレフィーさんは、きっかけがあれば王家の『特別』は崩れると話していた。自分たちが魔界へ帰ることで、時間とともにそれが起こると。
(それを意図的に起こしてみたら、どうだろう)
読めない文字を読む……外国語を読む。私がそれをするとき、例えば英語を翻訳するときはどうしてた?
(英和や和英辞典……そうだ、辞典)
習っていない外国語でも、辞典があれば単語の組み合わせで何となくは意味は読み取れていた。だったら、ここでも和オプストフルクト辞典――略して『和オプ辞典』を作ればいい。
私は目を開け、炬燵を囲む面々を左から順に見て行った。
「あのっ、聞いて欲しいことがあります」
そして、語りが止まらないシナレフィーさんの口にミアさんが蜜柑を放り込んだ絶好の機会を逃さず、私は素早く手を挙げた。