トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「触媒集めって、どんなことをしているんですか?」
「鉱石なら、鉱山まで行って魔法で掘り出している。薬草は、栽培出来るものはミアに育ててもらって、そうでないものは野生のを採集しに行ってる」
「多くの触媒は、他の魔法を発動させる際にも必要です。だから、人間と取り合いになるんですよ」

 ギルの説明に、シナレフィーさんが難航している理由を付け加える。

「こっちで採集しているのは、俺とシナレフィーだけだからな」

 さらにギルが付け加える。なるほど、確かにそれだと人手が少ない分、ギルたちが不利だ。
 でもそれは逆に、人間社会の中ではそれなりに流通していることになるのでは。

「人間に身近なものなら、彼等から買うのはどうですか?」

 奪っていざこざを起こしたくないのなら、普通に取引してみればどうだろう。人型で街に混ざってしまえば、大多数の人間は気付かないのでは。
 そう思って提案してみるも、ギルが首を横に振る。

「俺もそう思って、人間の街を見て回ったことがあったんだ。ところが、売ってなかった。店売りしてないってことは、どこかで(まと)めて管理されていることになる。そういった場所で買うとなると、身分証明がいるだろう。無理だ」
「纏めて管理……もしかして」

 私はピンと来た。
 ここはファンタジーな世界。で、魔物がいる。と来れば『冒険者』がいるのでは。
 そして採集したものを買い取り、纏めて管理しているのは、『冒険者ギルド』なのでは。

「ギル。そこから買えるかもしれません。身分証明書が無くても」
「何⁉」

 ギルは「管理されている」からお堅いところだと思ったのだろう。けど、私の予想が正しければ、そこと取引するのにそんなものは必要ない。

「多分ですけど、そこは受注発注の店です。いつも取り合いになってる状態なら、定期購入している人がそれなりにいるはず。それなら店の方で、多めに在庫を持っているかもしれません。運が良ければ発注したその場で、手に入るかも」
「何だって!」
「? 妃殿下は異世界から来られたはずでは。どうしてそのような情報が?」

 ギルがガタッと椅子から立ち上がる一方、シナレフィーさんが冷静に聞いてくる。

「私の世界には、異世界について書かれた本があるんです。それも大量に。で、多くの異世界でそのシステムを採用している店が存在するんですよ。だからここでも、そうなのではと思って」

 そう答えれば、シナレフィーさんが珍しく目を瞠る。

「あら。レフィーったら、サラ様の世界の本に興味津々て顔ね。本当、本の虫なんだから」

 彼がそうなった理由は、ミアさんが言ってくれた。

「竜族は、知識欲が強い種族なんです」
「それは身を(もつ)て知っているわ。人間との間に子供が生まれたらどちらに似るのか、実験された当事者ですもの、私は」
「それはっ……今は、実験などとは思っていません。誓って」

 シナレフィーさんが、今度は焦った様子を見せる。
 彼のレアな表情を立て続けに二つも引き出すとは。ミアさん、すごい。
 きっと出会った直後は無表情オンリーだったろうに、そんな関係を築けるなんて。私なら秒で心が折れる。間違いない。

「そう言えば、聞きましたよ。サラ様も生け贄にされそうなところを、陛下に助けていただいたとか。私も昔、雨乞いの儀式で、水神の花嫁という名の生け贄になるところをレフィーに助けてもらったんですよ」
「それは……奇遇ですね」

 ミアさんにそう返して、自分の台詞に「あっ」と思う。
 数刻前のシナレフィーさんが言っていた『奇遇』、人間なこととこのことと二重の意味合いだったのか。
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