トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
『陛下に必ずお渡しします』
トムが心配そうな顔で私に言う。口に物を銜えたままでも話せるって、便利だね。
トムはそれから予想通りひょいひょいと家具な足場を登って、窓から出て行った。ヤンは既に任務を遂行しに、この場を離れている。
「何だ、魔物⁉ くそっ、窓から出入りされていたのか」
壮年男性の声が通路に響く。「出入りされていた」という言い方から、ヤンとクンは上手く逃げおおせたようだ。
さて、やはり問題は私自身のようである。
(捕まっても、ギルの結界がある内は殺されないはずだけど……)
カシム強制送還事件からの教訓か、潜入にあたり私はギルに、基本の効果プラスアルファな結界を施された。彼曰く、「俺以外の男はサラに触れない」そうだ。この状況で私がそこまで焦らないのは、その結界の存在が大きい。
結界の存在は、カシムに指摘されるまで知らなかった。しかし今日、念入りにチューされた直後に結界を張りました的な台詞を言われ、「あ、それ」と気付いた次第。
以前、ギルが暫く帰らなかったとき、ギルの魔力が切れ食人蔦の声が聞こえなくなるまでには数日あった。今回はギルが近くにいるのだ、逃げ出せなくともそう間を置かないで彼は助けに来てくれるだろう。なんて素晴らしいセーフティーネット。
とはいえ、そんな目論みがバレた日にはギルから大目玉を食らいかねないので、自力で逃げる方法を精一杯考えてはみるが。
「ふ……んっ」
檻の鉄格子に手を掛け踏ん張ってみるも、一ミリとて曲がらなかった。降って来たからには床とは分離するはずだが、重くて持ち上げることも叶わない。
(正攻法が駄目となると……)
何か別の方法は無いものか。私は打開策を求めてミニマップに意識を移した。
(うわっ、赤いマークに変わってる)
先程まで白いマークだった二人は、赤いマーク――敵を示す色に変わっていた。
ただ、壮年男性の歩みは酷く慎重なものに変わっていた。先にヤンとクンを目撃した彼は、檻に捕らわれたのも魔物だと思っているのだろう。
「あの部屋には毒薬が置いてある。必要に応じて使え」
(毒薬⁉)
余裕をかましていた私は、奥から飛んできた声に跳び上がった。
毒……毒の場合、私の結界はどうなるんだろう。効くの? 効かないの?
魔物と思っているものに「使え」というなら、投げつけるタイプだろうか。だとすると、皮膚から摂取……煙や霧状で鼻からという線もある。
結界があっても、ミアさんオススメの美容クリームで肌はつるすべになっているし、リリが寝る前に焚いてくれるお香でぐっすりねむれている。これは、皮膚や鼻から毒薬を取り込んでしまう可能性は十分にあるのでは⁉
(何か……何か手立ては――あっ)
右見て左見て上見て下見て。そこで私は自分が抱えていた本の存在を思い出した。
そうだ、そうそう。うっかりしていた。
(ここでやるべきアクションなんて、これに決まっているよね!)
私はオーブが置いてあった台座の上に、持っていた本三冊をドサッと乗せた。
これで檻が天井まで戻って――
シーン……
――戻らない⁉ 何故⁉
ここまでパズル要素を繰り出しておいて、ここに来て現実感を出してくるとかナシでしょ。お約束を発動するべきは、今でしょ!
本の数を、二冊、一冊と変えてみてもやはりウンともスンとも反応しない。変わらない結果に諦め、もう一度三冊を台座に戻す。
コツン
不意に、ごく近い場所から音がした。
「……っ」
再度ミニマップに目を遣る。
部屋の入口寸前まで来た赤いマークが、私の目に映った。
トムが心配そうな顔で私に言う。口に物を銜えたままでも話せるって、便利だね。
トムはそれから予想通りひょいひょいと家具な足場を登って、窓から出て行った。ヤンは既に任務を遂行しに、この場を離れている。
「何だ、魔物⁉ くそっ、窓から出入りされていたのか」
壮年男性の声が通路に響く。「出入りされていた」という言い方から、ヤンとクンは上手く逃げおおせたようだ。
さて、やはり問題は私自身のようである。
(捕まっても、ギルの結界がある内は殺されないはずだけど……)
カシム強制送還事件からの教訓か、潜入にあたり私はギルに、基本の効果プラスアルファな結界を施された。彼曰く、「俺以外の男はサラに触れない」そうだ。この状況で私がそこまで焦らないのは、その結界の存在が大きい。
結界の存在は、カシムに指摘されるまで知らなかった。しかし今日、念入りにチューされた直後に結界を張りました的な台詞を言われ、「あ、それ」と気付いた次第。
以前、ギルが暫く帰らなかったとき、ギルの魔力が切れ食人蔦の声が聞こえなくなるまでには数日あった。今回はギルが近くにいるのだ、逃げ出せなくともそう間を置かないで彼は助けに来てくれるだろう。なんて素晴らしいセーフティーネット。
とはいえ、そんな目論みがバレた日にはギルから大目玉を食らいかねないので、自力で逃げる方法を精一杯考えてはみるが。
「ふ……んっ」
檻の鉄格子に手を掛け踏ん張ってみるも、一ミリとて曲がらなかった。降って来たからには床とは分離するはずだが、重くて持ち上げることも叶わない。
(正攻法が駄目となると……)
何か別の方法は無いものか。私は打開策を求めてミニマップに意識を移した。
(うわっ、赤いマークに変わってる)
先程まで白いマークだった二人は、赤いマーク――敵を示す色に変わっていた。
ただ、壮年男性の歩みは酷く慎重なものに変わっていた。先にヤンとクンを目撃した彼は、檻に捕らわれたのも魔物だと思っているのだろう。
「あの部屋には毒薬が置いてある。必要に応じて使え」
(毒薬⁉)
余裕をかましていた私は、奥から飛んできた声に跳び上がった。
毒……毒の場合、私の結界はどうなるんだろう。効くの? 効かないの?
魔物と思っているものに「使え」というなら、投げつけるタイプだろうか。だとすると、皮膚から摂取……煙や霧状で鼻からという線もある。
結界があっても、ミアさんオススメの美容クリームで肌はつるすべになっているし、リリが寝る前に焚いてくれるお香でぐっすりねむれている。これは、皮膚や鼻から毒薬を取り込んでしまう可能性は十分にあるのでは⁉
(何か……何か手立ては――あっ)
右見て左見て上見て下見て。そこで私は自分が抱えていた本の存在を思い出した。
そうだ、そうそう。うっかりしていた。
(ここでやるべきアクションなんて、これに決まっているよね!)
私はオーブが置いてあった台座の上に、持っていた本三冊をドサッと乗せた。
これで檻が天井まで戻って――
シーン……
――戻らない⁉ 何故⁉
ここまでパズル要素を繰り出しておいて、ここに来て現実感を出してくるとかナシでしょ。お約束を発動するべきは、今でしょ!
本の数を、二冊、一冊と変えてみてもやはりウンともスンとも反応しない。変わらない結果に諦め、もう一度三冊を台座に戻す。
コツン
不意に、ごく近い場所から音がした。
「……っ」
再度ミニマップに目を遣る。
部屋の入口寸前まで来た赤いマークが、私の目に映った。