トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
オーブ奪還 -ギル視点-
竜から人に姿を変え、地上に降りる。それから俺は村を大回りして、森側からサラが入っていった建物へと近付いた。
その途中、奇妙な人工物が目に入り足を止める。地表近くにある横並びになった硝子。設置場所が地面とおかしいが、窓のように見えた。
「おっと」
もう少し近付こうとして、結界に阻まれる。一見村の外に見えるが、さすがに結界の外に建造はしないか。
「こちらでしたか」
窓から中の様子を探ろうとしゃがみかけたところで、後ろから俺に声を掛けてきた者がいた。
「何だ、シナレフィー。結局気になって様子を見に来たのか」
「気にしていたのは、私ではなくミアです」
振り返って声の主に答えれば、素直でない切り返しがきた。ミアも気にはしていただろうが、自分もまったく気になっていないわけではないだろうに。
「私の用事は、こちらです」
「お、もうできたのか」
俺はシナレフィーから小瓶を受け取り、中身の赤い染料を陽に翳してみた。その鮮やかな発色に、かなり高純度な出来映えと窺える。
「私に割り当てられた仕事は、それで最後ですよね。約束の報酬を下さい」
シナレフィーが「とっとと出せ」と言わんばかりに、俺に手のひらを出してくる。十数年前に協力を依頼したときには、報酬を出すといっても見向きもしなかったくせに。
俺はシナレフィーの現金さに半ば呆れながら、彼が求める報酬が仕舞ってある亜空間を探った。
目的の物を取り出し、それを目の前で主張する手に乗せてやる。
シナレフィーが求めたのは、俺の先祖が書き記した一冊の本だった。竜殺しの剣の製法――それについて書かれた、本。
「ありがとうございます。これでミアに先立たれたときに、後を追えます」
受け取った本の表紙を大切そうに撫でる幼馴染みに、複雑な心境になる。
「……剣の後始末まで考えておけよ」
その一方で理解もできてしまい、俺は彼にそう一言だけ返した。
『陛下』
用は済んだと踵を返したシナレフィーと入れ替わるようにして、狼族の子がこちらへと走って来た。サラにつけた一体だ。
「オーブか! よくやった」
彼の口に銜えられてきた宝石を受け取る。間違いない、探していた転移のオーブだ。
これで必要なものは揃った。サラが戻ったなら魔王城に帰り、後は魔法陣を描けばいい。
「――サラは?」
そのサラの姿がまだ見えないことに、俺は辺りの気配を探った。
オーブを持たせた魔物を先に離脱させたとして、そう時間を置かずに彼女も戻って来ていいはずなのだが。
『妃殿下は、檻に捕らわれてしまいました』
「どういうことだ⁉」
狼族の子の言葉に、反射的に問い質す。
サラにつけた他の二体も、俺の元へと戻って来た。やはりサラの姿は見えない。
『回転する壁と「いっせーので」で開く扉は、妃殿下が見事解決されたのですが』
「いや本当、どういうことだ⁉」
よくわからない報告だが、人間ではなく檻に捕らわれたと表現したあたり、仕掛けられていた罠に掛かってしまったということだろうか。
「助けに行く。お前が出て来た場所まで案内しろ」
染料とオーブを亜空間に投げ入れる。
それから俺は、走り出した狼族の子を追った。
その途中、奇妙な人工物が目に入り足を止める。地表近くにある横並びになった硝子。設置場所が地面とおかしいが、窓のように見えた。
「おっと」
もう少し近付こうとして、結界に阻まれる。一見村の外に見えるが、さすがに結界の外に建造はしないか。
「こちらでしたか」
窓から中の様子を探ろうとしゃがみかけたところで、後ろから俺に声を掛けてきた者がいた。
「何だ、シナレフィー。結局気になって様子を見に来たのか」
「気にしていたのは、私ではなくミアです」
振り返って声の主に答えれば、素直でない切り返しがきた。ミアも気にはしていただろうが、自分もまったく気になっていないわけではないだろうに。
「私の用事は、こちらです」
「お、もうできたのか」
俺はシナレフィーから小瓶を受け取り、中身の赤い染料を陽に翳してみた。その鮮やかな発色に、かなり高純度な出来映えと窺える。
「私に割り当てられた仕事は、それで最後ですよね。約束の報酬を下さい」
シナレフィーが「とっとと出せ」と言わんばかりに、俺に手のひらを出してくる。十数年前に協力を依頼したときには、報酬を出すといっても見向きもしなかったくせに。
俺はシナレフィーの現金さに半ば呆れながら、彼が求める報酬が仕舞ってある亜空間を探った。
目的の物を取り出し、それを目の前で主張する手に乗せてやる。
シナレフィーが求めたのは、俺の先祖が書き記した一冊の本だった。竜殺しの剣の製法――それについて書かれた、本。
「ありがとうございます。これでミアに先立たれたときに、後を追えます」
受け取った本の表紙を大切そうに撫でる幼馴染みに、複雑な心境になる。
「……剣の後始末まで考えておけよ」
その一方で理解もできてしまい、俺は彼にそう一言だけ返した。
『陛下』
用は済んだと踵を返したシナレフィーと入れ替わるようにして、狼族の子がこちらへと走って来た。サラにつけた一体だ。
「オーブか! よくやった」
彼の口に銜えられてきた宝石を受け取る。間違いない、探していた転移のオーブだ。
これで必要なものは揃った。サラが戻ったなら魔王城に帰り、後は魔法陣を描けばいい。
「――サラは?」
そのサラの姿がまだ見えないことに、俺は辺りの気配を探った。
オーブを持たせた魔物を先に離脱させたとして、そう時間を置かずに彼女も戻って来ていいはずなのだが。
『妃殿下は、檻に捕らわれてしまいました』
「どういうことだ⁉」
狼族の子の言葉に、反射的に問い質す。
サラにつけた他の二体も、俺の元へと戻って来た。やはりサラの姿は見えない。
『回転する壁と「いっせーので」で開く扉は、妃殿下が見事解決されたのですが』
「いや本当、どういうことだ⁉」
よくわからない報告だが、人間ではなく檻に捕らわれたと表現したあたり、仕掛けられていた罠に掛かってしまったということだろうか。
「助けに行く。お前が出て来た場所まで案内しろ」
染料とオーブを亜空間に投げ入れる。
それから俺は、走り出した狼族の子を追った。