トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~

魔王の隣に在る者

 ドガッ
 私の目の前、突如、机が飛んだ。

(え?)

 そう、今、机が飛んだ。――通路を塞ぐようにして。
 無意識に通路を凝視していた私は、起きた現象に呆気に取られた。

「檻にいる一体だけじゃなかったのか!」

 ミニマップ上でも、通路は障害物に塞がれている表示に変わっていた。障害物の手前、男を示す赤いマークがうろうろと動いているのが見える。
 キィギギギ……

「⁉」

 ミニマップを注視していた私は、急に近くで鳴った金属音に危うく悲鳴を上げかけた。
 その際に、両手で口を塞いだのが幸いした。でなければ、絶対に声を上げていた。そこにあった光景は、それほどに異様だった。

(……嘘)

 ギギギ……
 壁にあったはずのタペストリーが、いつの間にか檻の鉄格子に絡まっていた。その布が絡まった鉄格子二本が、それぞれ反発し合うように折れ曲がって行く。
 そして金属音が止むと、私の前には人一人通れるくらいの隙間が、ぽっかりと空いていた。
 役目は終えたとばかりに、はらりとタペストリーが床に落ちる。それがもう動くことはなかった。

(出ろということよね……?)

 私はタペストリーを踏まないようにして、檻から出た。
 もう一度、通路の方を見る。いつの間にか、机なバリケードの駄目押しにとばかりに、対の椅子まで移動していた。
 ミニマップの赤いマークはいつの間にか遠ざかっていた。男の方は引き上げたようだ。
 それはそうだろう、机を投げ飛ばしたり鉄格子を曲げるような『魔物』だ。どう考えても人間一人の手には負えない。

(さて、私はあそこまでどうやって行くか)

 私はトムが出て行った窓を見上げた。換気のためか、内側からなら簡単に開くような造りのようで、壊して出て行ったわけではないようだ。
 ズズズ……ガタンッ
 脱出経路を考えていたところ、窓の真下の壁に向かって倒れ込んだ本棚が、私の目に飛び込んできた。

「……」

 ちなみに最初の「ズズズ……」という音は、そこまで本棚が横滑りに動いた音だ。呆気に取られているうちに、別の本棚も移動して先のものに折り重なるようにして倒れた。その上には、また別の本棚が。

「え……」

 そしてガタゴトと煩かった室内が静まり返れば、そこには窓まで続く『階段』が現れていた。まるで私が窓まで行こうとしたが故に、そうなったかのように。

(と、とにかく逃げ出さないとね)

 未だ呆然としながらも、出来上がった本棚階段を上る。
 一番上まで登り窓を開けた私は、思わず「あっ」と声を上げた。
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