トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「サラ!」

 真っ正面、驚いたギルの顔がそこにあった。地面に片膝を付き窓枠に手を掛けた彼と、お互い口を開けたまま見つめ合う。

「無事で良かった」
(! あ、それで)

 ホッと息をついたギルに、私はピンと来た。先の不思議現象の正体についてだ。
 考えてみれば以前にギルは、魔王城の壊れた城壁をフワフワ浮かせていたことがあった。カルガディウムへ魔物を家屋ごと引っ越させたのも彼だ。家具の移動なんて、ちょちょいのちょいでやってのけてしまうんだろう。

「ありがとう、ギル。助けに来てくれるとは思ってましたが、まさかあんな手段とは。驚きました」

 ギルの両手に引き上げられながら、私は彼に礼を言った。
 地上まで出て、ギルを見上げる。

「ギル?」

 いつものように、ギルは嬉しそうにしてくれるとばかり思っていた。ところが彼は、不思議な面持ちでこちらを見下ろしていた。

「あんな手段? いや、俺はまだ何も――」

 何のことだといった表情で口にしたギルが、その途中、言葉を止める。そして、彼はバッと再び窓枠を掴んだ。
 本棚、タペストリー、机……ギルが顔ごと目を移して行く。彼の手の中、窓枠がミシッと軋む音を立てた。
 ギルが眉根を寄せ、堪えるような表情になる。

(! もしかして……)

 その彼の様子に、私はハッとして室内を振り返った。

「……助けてやれなくてすまなかった。俺の妃を救ってくれたこと、……心から感謝する」

 ギルは、『彼ら』に頭を下げていた。
 『殺された同胞の血肉が衣類や家具になっている』
 いつか聞いた、ギルの言葉が蘇る。

(魔物、素材……)

 変わらず出入口を塞ぐ机と椅子を見る。
 床に落ちた皺だらけのタペストリーを見る。
 ぐらつくことなく最後まで支えてくれた、折り重なった本棚を見る。
 私は、『彼ら』を見つめた。
 私は、『彼ら』に助けられたのだと、理解した。

(魔王ギルガディス……)

 次いで、『彼ら』がそうした理由をも理解した。真摯な態度で『彼ら』を想う魔王のため、彼が守ろうとする私を守ってくれたのだと。

(ギルの悲願を実現させてみせるから……約束、するから……)

 『彼ら』の代わりに、私は少しでもギルの役に立ちたい。
 私は礼と誓いを込めて、深く、『彼ら』に頭を下げた。
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