トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「初めて会った時のレフィーったら、『湖と結婚出来るくらいなら、竜でもいいでしょう』なんて言ってきて。開いた口が塞がらなかったわ」

 大仰に溜息をついてみせるミアさんに、シナレフィーさんが「ミア……」と少しおろおろした様子を見せる。

「ふふっ、虐めてごめんなさいね、レフィー。今はちゃんと幸せよ。あ、そうそう。子供がどちら似かは、今のところ半々なんですよ。一人目が人間の赤ちゃんで産まれて、二人目は卵で出て来たの! 何だか得をした気分だわ」

 ミアさんが弾む声で言い、幸せそうに笑う。

「二人もお子さんがいるんですか!」

 見えない。彼女が若いというのもあるが、それ以上に体型がそんな感じじゃない。華奢だ。スリムだ。あ、でも胸は大っきい……。

「幸い人間の生殖については、記された書物が多数あったので助かりました」

 ミアさんに替わりの紅茶を注ぐシナレフィーさんは、もう無表情に戻っていた。
 ミアさんがにこにこながら、シナレフィーさんが淹れた紅茶を飲む。
 エロ本を読み漁ったと言ったも同然の夫に、まったく動じないミアさん。やはり、すごい。
 ところでミアさんが、さっきからシナレフィーさんを『レフィー』呼びしてるの。やっぱりこれなんだろうな、ギルが『ギル』呼びに固執する理由は。
 羨ましかったんだね。そう思って、ギルをちらりと見る。

「ん? 竜の知識欲についてか? 俺は謎を解くより、探す方が好きだ!」

 ドーンという擬音が付きそうな程、どや顔でギルが言う。
 そう言えば、ギルも古代竜で竜族だった。謎を解きたい派のシナレフィーさんとなら、良いコンビになっていそうだ。

「シナレフィー。明日、街に行って、サラが話していたような店がないか調べてきてくれ」
「かしこまりました」

 ボーンボーン……
 シナレフィーさんがギルに返事をしたところで、食堂に置かれた巨大な柱時計が鳴った。

「キスの時間だ」
「キスの時間ですね」

 その音に、同時に反応する男二人。
 でもって、

(うはぁっ!)

 シナレフィーさんが涼しい顔で、めっちゃ濃厚なキスをミアさんに仕掛けた。
 それを常日頃からやってるわけですか。そうですか。

「ひゃっ」

 ギルから私へは、額にチュッと。
 ニッと笑ったその表情、やっぱり好きです。

(キスの時間て、私からギルにしてみてもいいのかな)

 もしそれをやったならと想像してみて、慌てた彼を思い浮かべて口元が緩む。

(そ、そのうち勇気を出して……!)

 元の世界に帰れるのだから、旅の恥は掻き捨てということで!
 良い笑顔のまま私の頭を撫で始めたギルに、私は密かな決意を胸にした。
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