トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
 ギルの部屋、私は彼のベッドに腰掛けていた。部屋に招かれた際、その主が先にベッドに座り、ポンポンと隣を叩いてみせたものだから。

(何だか、ずっと昔からこうしてたような気がする)

 ギルが語る魔界の見所と注意点を聞きながら、ぼんやりと彼を見つめる。
 魔王城に帰還後、ギルは城の中央にあたる玉座の間に魔法陣を描いた。後はそれを月の光に一晩当てれば、翌日中天の刻に自動発動するという。

(魔界。うん、私は魔界にギルと行く)

 ギルは魔界からなら私に元の世界に帰れるとも言ったけれど、私はきっともうそんな気にはなれないだろう。ギルの隣に在るこの幸せな場所を、知ってしまったから。

「――で、底無し沼になってるから、絶対近寄るなよ」
「うんうん」

 ギルの話は「やっぱり」と「それは意外」の割合が8対2くらいの印象だ。
 とぽぽっ
 私はギルの話に頷きながら、目の前のワゴンに載ったカップに彼の分の茶を注ぎ足した。
 リリが不在――というか今は魔王城に私とギルしかいないため、今回のお茶は私が用意した。味はそこまで悪くないものの、カップの中にちらほら茶葉が浮いてしまっている。一仕事終えた夫を労う大切な一杯のシチュエーションでこれとは、無念。
 ゴクゴク
 優しい夫は、それをにこにこしながら飲んでくれているけれども。

「……ん? また雷か。シナレフィーの奴、やり過ぎるなと言っておいたのに、あいつの中で『やり過ぎ』はどのレベルなんだ」

 それは人間が絶滅するレベルかと。
 そう思いつつも、今はギルにゆっくりして欲しいので、そんな彼の胃を痛めそうな感想は黙っておく。

「カルガディウムは大丈夫なんでしょうか」

 先程から、シナレフィーさんが落としているという雷でピカピカ眩しい窓を見る。
 いよいよ魔界に帰るということで、自主的に魔物が集まって来ているらしく、カルガディウムは現在満員御礼状態。そのため街の管理のために、リリも駆り出された。
 ギルが回収する際、魔物は世界のどこにいても可能らしいが、群れていた方が安全という彼らの生存本能かもしれない。やって来た大半は、魔物素材で有名な種族というのを耳にした。
 実は聞いた瞬間、思ってしまった。「それ、何てボーナスステージ」って。
 でもって、そう思ったのは私だけじゃなかったようで。当然の成り行きというか、数日前から人間がわんさか押し寄せているという。

「まあ……最悪、魔物を狩りに来る人間しか死なないから、人間自体が絶滅することはないはず」
「やっぱりそのレベルの話になってしまうわけですね。シナレフィーさん単体だと……」
「だな……いつもはストッパー役の魔王城は、精霊の村で精霊たちの世話を焼いてもらっているしな……」
「それは適役過ぎて異動させられないですね……」

 風と水の精霊も、それぞれイベリスちゃん作の絵とアルトくん作の泥団子を土産に村へ帰ったそうだし。自由気ままな彼らを思うと、転移魔法の成否の大部分は魔王城に掛かっているといっても過言ではない……?
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