トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「サラ。これはもう片付けてもいいか?」
ギルが空のカップをワゴンに戻しながら、私を振り返る。
ワゴンを指差した彼に、私は頷いた。私は最初に淹れた一杯を飲み終えた時点で、水分補給も残念感もいっぱいです。
ギルがワゴンをつつくと、ティーセットを載せたままにそれがパッと消えて無くなる。いつも思うけれど、亜空間が便利過ぎる。私も使えるようにならないものか。魔界に行って落ち着いたら、聞いてみよう。
「お、雷が止んだな」
「そうですね」
いきなり暗さが増した室内に、窓を見なくてもわかる。止んだ理由が、人間部隊の壊滅でなく撤退だと信じたい。
「リリも張り切っていたからな。決着にそう掛からないと思ってた」
「確かにスキップで出掛けて行きましたね……」
リリ。そう、実は彼女もガチな戦力だったというね。
『呪い』の人形というのは伊達じゃないようで。彼女の呪いを受けた敵は、幻に囚われるとか。
その幻は、敵が味方に味方が敵に見えるという。腕に自信がある者が掛かれば、その場で同士討ちが始まるし、そうでなければ、逃げ込んだ先が敵陣の只中なんて状況に。やばい、エグい。
物理で一掃のシナレフィーさんと、精神攻撃のリリ(ミアさん付きのルルも)。最強タッグで、心配せずともカルガディウムは安泰のようです。
「キスの時間だ」
唐突に来たいつもの台詞とともに、いつものようにギルは私の頬に手を伸ばしてきた。けれど触れる直前に、ピタリとその手を止める。
それから彼は何故か「あー……」と目を泳がせて、結局触れないままベッドから立ち上がった。
「やっぱりサラを部屋に送ってからにする」
ギルに差し出された手に掴まり、私も立ち上がる。そのまま手を引かれて、出入口の扉へ――
と、そこで別の扉が私の視界に入った。
「ギル」
前を行く背中を、ちょんちょんとつつく。身体ごと振り向いた彼に、私は隣の部屋に続く内扉を指差してみせた。
わざわざ廊下まで出なくとも、そこを通れば行ける。そんな軽い気持ちで。
「……開けていいのか?」
ギルが遠回りした理由を思い出したのは、彼にそう問われてから。
つい先日、彼のことを『隣に通じる扉は許可が下りるまで開けるの禁止』を忠実に守ってくれている律儀な人と評したばかりなのに。どうしてここに来て失念してしまっていたのか。
(許可……って、やっぱりそういう意味も含む……?)
いや含むどころかギルの問い方からいって、今この場においてはその解釈でしかないような。
「え、あ……」
かぁっと、顔が火照ったのがわかった。
そんな私の反応から、そのつもりはなかったことが見て取れたのだろう。ギルはしまったという表情でまた目を泳がせた。
「いや、サラは悪くなくて……」
もごもごと呟きながら、ギルが無意識なのか繋いだ手をにぎにぎしてくる。
にぎにぎ
何とはなしに、繋がれた手を見る。
「その、……ギル」
最初に思ったのは、そわそわした彼の気持ちが伝わってくるこの手を離したくないということ。
「……いいです、よ」
次に思ったのは、「添い寝じゃない一緒に寝る日」の会話をしたあのときと今と、同じ気持ちだということ。
にぎにぎを繰り返していたギルの手が、きゅっと握った状態で止まる。そうした彼が、私をじっと見てくる。
「じゃ、じゃあそういうことで開けますね」
熱っぽい視線に居た堪れなくて、私は今度は自分が彼の手を引いて、内扉の前まで行こうとした。
ギルが空のカップをワゴンに戻しながら、私を振り返る。
ワゴンを指差した彼に、私は頷いた。私は最初に淹れた一杯を飲み終えた時点で、水分補給も残念感もいっぱいです。
ギルがワゴンをつつくと、ティーセットを載せたままにそれがパッと消えて無くなる。いつも思うけれど、亜空間が便利過ぎる。私も使えるようにならないものか。魔界に行って落ち着いたら、聞いてみよう。
「お、雷が止んだな」
「そうですね」
いきなり暗さが増した室内に、窓を見なくてもわかる。止んだ理由が、人間部隊の壊滅でなく撤退だと信じたい。
「リリも張り切っていたからな。決着にそう掛からないと思ってた」
「確かにスキップで出掛けて行きましたね……」
リリ。そう、実は彼女もガチな戦力だったというね。
『呪い』の人形というのは伊達じゃないようで。彼女の呪いを受けた敵は、幻に囚われるとか。
その幻は、敵が味方に味方が敵に見えるという。腕に自信がある者が掛かれば、その場で同士討ちが始まるし、そうでなければ、逃げ込んだ先が敵陣の只中なんて状況に。やばい、エグい。
物理で一掃のシナレフィーさんと、精神攻撃のリリ(ミアさん付きのルルも)。最強タッグで、心配せずともカルガディウムは安泰のようです。
「キスの時間だ」
唐突に来たいつもの台詞とともに、いつものようにギルは私の頬に手を伸ばしてきた。けれど触れる直前に、ピタリとその手を止める。
それから彼は何故か「あー……」と目を泳がせて、結局触れないままベッドから立ち上がった。
「やっぱりサラを部屋に送ってからにする」
ギルに差し出された手に掴まり、私も立ち上がる。そのまま手を引かれて、出入口の扉へ――
と、そこで別の扉が私の視界に入った。
「ギル」
前を行く背中を、ちょんちょんとつつく。身体ごと振り向いた彼に、私は隣の部屋に続く内扉を指差してみせた。
わざわざ廊下まで出なくとも、そこを通れば行ける。そんな軽い気持ちで。
「……開けていいのか?」
ギルが遠回りした理由を思い出したのは、彼にそう問われてから。
つい先日、彼のことを『隣に通じる扉は許可が下りるまで開けるの禁止』を忠実に守ってくれている律儀な人と評したばかりなのに。どうしてここに来て失念してしまっていたのか。
(許可……って、やっぱりそういう意味も含む……?)
いや含むどころかギルの問い方からいって、今この場においてはその解釈でしかないような。
「え、あ……」
かぁっと、顔が火照ったのがわかった。
そんな私の反応から、そのつもりはなかったことが見て取れたのだろう。ギルはしまったという表情でまた目を泳がせた。
「いや、サラは悪くなくて……」
もごもごと呟きながら、ギルが無意識なのか繋いだ手をにぎにぎしてくる。
にぎにぎ
何とはなしに、繋がれた手を見る。
「その、……ギル」
最初に思ったのは、そわそわした彼の気持ちが伝わってくるこの手を離したくないということ。
「……いいです、よ」
次に思ったのは、「添い寝じゃない一緒に寝る日」の会話をしたあのときと今と、同じ気持ちだということ。
にぎにぎを繰り返していたギルの手が、きゅっと握った状態で止まる。そうした彼が、私をじっと見てくる。
「じゃ、じゃあそういうことで開けますね」
熱っぽい視線に居た堪れなくて、私は今度は自分が彼の手を引いて、内扉の前まで行こうとした。