トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「――ギル?」
けれど私の足が扉に近付いた距離は、私の腕の長さの分だけで。
そうなったのは、ギルが動かなかったからで。
「……やっぱり、開けない」
「え?」
聞き返したときには、私は背中からギルの腕の中に収まっていた。
「開けなくていい。帰さないから」
耳元でギルの声が聞こえて、次いで部屋の灯りがふっと消える。かと思えば、部屋の中央辺りにポツンと小さな光が闇に浮かんだ。
その光に蝋燭の火みたいだと思って、
(みたい、じゃない。そういえば、初めてはキャンドルの灯りだけの部屋でとか、前に話してた)
今日もまた律儀な彼に、幾分か緊張が和らぐ。
「サラ」
繋いだままの手が、肩よりも高く持ち上げられる。
手の甲に、ギルの熱が触れた。
(ギル……)
初めて体験した『キスの時間』を彷彿とさせる。
そう感じたのはきっと正解で、次は額へ、その次は頬へ。軌跡を辿るように、キスは続いた。
的確にその場所へキスが来るあたり、この闇の中でもギルの方はバッチリ見えているのだろう。何だか不公平だ。
「ひゃあっ」
キスが止むと同時に、足が宙に浮いた。
いつもの、もう慣れたはずのお姫様抱っこ。落ち着くと思ったことさえあったのに、今はその余裕はどこへやら。
「ふぁっ……」
ギルに耳を食まれ、思わず身を縮こめる。
耳にされたのは初めてだった。触れた箇所からゾクゾクとした感覚が広がる。
全身が敏感になっているのか、背中から下ろされたベッドの皺ばんだシーツの凹凸に、くすぐったさを感じた。
(わ、わ、わ)
相変わらずほとんど見えない視界でありながら、ギルの気配はわかる。彼は今、私の肩の横に両手を突いて、覆い被さるように私を見下ろしている。
前にもここで、こんなことがあった。ギルと初めてキスをしたときだ。
あのときは私が倒れる準備なんて、おかしな理由があって。しかも実際、倒れてしまって。
「……今日も、倒れそう」
「ごめん、先に謝っておく。さっきサラに気絶防止の魔法を掛けた」
「え?」
私はただ、既にいっぱいいっぱいだと表現しただけのつもりだった。二回目以降、倒れたことはなかったし、本気で気絶の心配をしたわけではなかった。
そのことは勿論、ギルも知っているはずで。それなのに、気絶防止の魔法……?
「え、ギル? え? ――ひゃうっ」
魔法付与の真意を問う前に、ギルに首筋を甘噛みされる。
そのまま噛み痕を舌で舐められ、まるでそれが問いの答なのだと返されたようだった。
「ふ……」
キスは喉元まで辿って、そこを一度音を立てて吸われた後、少しだけギルの顔が離れる。
「その、例の『ハナキ』は遠慮なく使っていい。後で怒って口を聞かないというのは、困る……」
強引なんだかそうでないんだか。行動とちぐはぐな発言をするギルに、つい「ふふっ」と笑いが零れる。
その私の唇に、彼はそっと触れるだけのキスをしてきた。
「愛してる……俺の花嫁。俺の――サラ」
けれど私の足が扉に近付いた距離は、私の腕の長さの分だけで。
そうなったのは、ギルが動かなかったからで。
「……やっぱり、開けない」
「え?」
聞き返したときには、私は背中からギルの腕の中に収まっていた。
「開けなくていい。帰さないから」
耳元でギルの声が聞こえて、次いで部屋の灯りがふっと消える。かと思えば、部屋の中央辺りにポツンと小さな光が闇に浮かんだ。
その光に蝋燭の火みたいだと思って、
(みたい、じゃない。そういえば、初めてはキャンドルの灯りだけの部屋でとか、前に話してた)
今日もまた律儀な彼に、幾分か緊張が和らぐ。
「サラ」
繋いだままの手が、肩よりも高く持ち上げられる。
手の甲に、ギルの熱が触れた。
(ギル……)
初めて体験した『キスの時間』を彷彿とさせる。
そう感じたのはきっと正解で、次は額へ、その次は頬へ。軌跡を辿るように、キスは続いた。
的確にその場所へキスが来るあたり、この闇の中でもギルの方はバッチリ見えているのだろう。何だか不公平だ。
「ひゃあっ」
キスが止むと同時に、足が宙に浮いた。
いつもの、もう慣れたはずのお姫様抱っこ。落ち着くと思ったことさえあったのに、今はその余裕はどこへやら。
「ふぁっ……」
ギルに耳を食まれ、思わず身を縮こめる。
耳にされたのは初めてだった。触れた箇所からゾクゾクとした感覚が広がる。
全身が敏感になっているのか、背中から下ろされたベッドの皺ばんだシーツの凹凸に、くすぐったさを感じた。
(わ、わ、わ)
相変わらずほとんど見えない視界でありながら、ギルの気配はわかる。彼は今、私の肩の横に両手を突いて、覆い被さるように私を見下ろしている。
前にもここで、こんなことがあった。ギルと初めてキスをしたときだ。
あのときは私が倒れる準備なんて、おかしな理由があって。しかも実際、倒れてしまって。
「……今日も、倒れそう」
「ごめん、先に謝っておく。さっきサラに気絶防止の魔法を掛けた」
「え?」
私はただ、既にいっぱいいっぱいだと表現しただけのつもりだった。二回目以降、倒れたことはなかったし、本気で気絶の心配をしたわけではなかった。
そのことは勿論、ギルも知っているはずで。それなのに、気絶防止の魔法……?
「え、ギル? え? ――ひゃうっ」
魔法付与の真意を問う前に、ギルに首筋を甘噛みされる。
そのまま噛み痕を舌で舐められ、まるでそれが問いの答なのだと返されたようだった。
「ふ……」
キスは喉元まで辿って、そこを一度音を立てて吸われた後、少しだけギルの顔が離れる。
「その、例の『ハナキ』は遠慮なく使っていい。後で怒って口を聞かないというのは、困る……」
強引なんだかそうでないんだか。行動とちぐはぐな発言をするギルに、つい「ふふっ」と笑いが零れる。
その私の唇に、彼はそっと触れるだけのキスをしてきた。
「愛してる……俺の花嫁。俺の――サラ」