社長室に呼び出されたら、溺愛生活が待っていました
そんな私を初樹さんは優しくただ見つめていた。

素直じゃなかった初樹さんが素直になって、素直に話していた私が上手く話せない。

まるで始めと逆になってしまったようだった。



「花重、ゆっくりでいいから。花重の言葉を俺はずっと待ってる」

「ねぇ、花重。君が上手く話せないなら、俺が話してもいい?」



そう言って初樹さんは、上手く話せない私の代わりにある昔話をし始める。



「君と初めて出会ったのは、丁度一年前くらいだったんだ。『地獄の宣告室』とここが呼ばれて、誰も私に近寄らなくなった頃。社員が俺を怖がり始めて、俺もそれに慣れていた」

「会社ですれ違って社員が挨拶をしてくれても、いつも何処か俺に怯えていた。君だけだった。俺を怖がらずに仕事で疲れている俺に『大丈夫ですか?』と声をかけてくれたのは」

「俺が『大丈夫』と返せば、それ以上は花重は何も聞かなかった。それだけの会話だったのに少しだけ会社で息がしやすくなって、花重を目で追うようになった」



初樹さんは愛おしそうに過去の私を思い出しているようだった。
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