夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「緋呂っ!!!」

ぎゅっと目をつぶった。

だけどいつもの声にそっと目を開けた。


穂月…?


「その手を降ろせよ」

ダンッと壁に手を当てながらはぁはぁと肩を上下に揺らしてあたしの隣に並んだ。

走って来たのかな、すごい苦しそう。

あたしを庇うように前に立って背中をあたしの方に向けた。

「十六夜…なんだよ、お前も遊んでほしいのか?」

振りかぶった手を1度下ろして、フッとほくそ笑んだ。

他の2人もニヤニヤ笑ってバカにしてる態度がほんとむかつく…!!

「じゃあご希望通り遊んでやるよ」

スッと大きく振りかぶる、やばいこの距離は避けられない!まともに当たっちゃう!!

「穂づっ」

後ろからシャツを握った。

これはやば…っ

「こらぁ~!何してるんだ!!?」

「げっ、猪熊(いのぐま)!」

ぬんっと死角だった壁の方から社会の猪熊先生が現れた。

名前の通り、体が大きくて力も強いオマケに顔も結構怖い猪熊先生は生活指導の先生でもある。ギュンッと目をひん剥いた猪熊先生は何もしてないあたしから見ても震える。

あ、でも助かった猪熊先生が来てくれたら…!

「先生こっちです、大村(おおむら)たちが猫いじめてます」

え、呼んだの穂月!?

冷静に答えてる穂月二度見しちゃった。

「くおらぁぁぁっ、お前らはまたこんなことして!」

「十六夜てめぇっ、卑怯だぞ!」

さすがの男子たちも猪熊先生は怖いらしい、わかるこっち向かって来てる顔めっちゃ怖いもん。でも間違ってないし。

「卑怯じゃねぇよ、弱いもんいじめして卑怯なのはどっちだよ!!」

背中しか見えてなかったけど、そんな風に言える穂月はカッコいいよ。

石を投げ捨てて走って逃げていく、それを猪熊先生が追いかけて。猪と熊の名前が入った猪熊先生だから、絶対最後まで狙った獲物を離さない精神も侮れないからね。
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