夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「保健室って遠いよなぁ、とかそんな話だよ」

やっぱり気になって速攻で聞いちゃった、夜。
黒猫のカラスがにゃーんって穂月に甘えた声を出しながら肩の上に乗っている。

「ふーん、そうなんだ」

いつもの公園を歩いて、普段なら空を見上げるところだけど今日は下を見たい気分だった。

「最近体調よくないみたいで頻繁に保健室来てるんだ、それで話すことが増えたって感じで暇だし」

吉川さん華奢だったもんね、全然焼けてなかったし髪の毛ツヤツヤでお手入れちゃんとしてるんだろうなぁって…


あたしとは真逆だった!!!


超健康優良児のあたし、保健室にお世話になったことがない。

行くのは決まって穂月を訪ねて、保健室というものの使い方もイマイチわかってない。


ちょっとだけ憧れちゃう。
穂月がいる保健室ってどんなとこなのかなって。


「そういやぁ、緋呂は体育祭何に出るんだ?」

「あのねぇ、今年も100メートルとリレー!」

「またアンカー?」

「そうだよ!絶対勝ちたいよね!」

グッと両手をグーにして気合いを表現して見せた。

1番足の早い人がアンカーを担うリレーは体育祭の1番最後の種目で1番盛り上がる競技なの、言わずもがなめーっちゃやる気!

でも穂月にこの話はつまらないんじゃないかなって、毎年思ってた。だから穂月から聞いてくれるのも、嬉しいけど複雑だったり。

「ねぇ」

「ん?」

「体育祭…、穂月も何かできることないの?」

「あるわけないだろ、炎天下だぞ」

伺うように聞いてみたけど即答で返って来た。

そりゃあたしだってそうは思ってるけど、でも何か穂月もできたらって…一緒に何かしたいじゃん。


中学最後なんだよ?


「今年も保健室にいるよ」

小学校の頃からずっと、運動会とか体育祭の日は1日中保健室にいた。たぶんもうそれがあたりまえになっちゃってる。

グラウンドから遠い保健室から見てるだけ…

「それって楽しい?」

「別に、あんまり見えないからな」

見えさえしなかった。確かにグラウンドから保健室見えないもん、保健室から見えてるわけないか。

てことはあたしが走ってることも、知らないよね。

「でもいいんだよそれで、緋呂はがんばってこいよ」
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