夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「穂月…っ!」

階段の上から身を乗り出して呼んだ。もう半分下りちゃって、踊り場のところにいたから。

「緋呂…」

少しでも早く追い付きたくて二段ずつ階段を飛ばして下りた。はぁはぁ肩を揺らしながら穂月の前に立って顔を上げる。

「悪いやっぱ体育祭はやめとくよ」

「穂月…っ、そんなこと言わないでよ!」

息を整える間もなく叫んだ。

「あんな大村の言うことなんて気にしなくていいよ!どーせテキトーだし、こないだのことが気に入らなくて嘘言ってるだけだもん!」

魔女がそんな人なわけがない、満月おばぁちゃんだって月華ママだって…穂月だってみんな優しいもん。

あたしの知ってる人たちはそんなんじゃない。


だってヨーロッパの魔女たちは病気や怪我を治したり、失くしたものを見付けたりして人々を助けて来たってー…!


「昔からそうなんだよ」

踊り場の窓は大きくて一面外が見える。窓に打ち付けるような雨の音はバチバチと響いて。

どこのクラスも授業中だから、やたらとうるさく感じてしょうがなかった。

「緋呂は知らなかったかもしれないけど」

「え…、なにが?」

静かに深呼吸をした穂月が窓の方を見て、ゆっくり口を開いた。

「…昔、ヨーロッパの方では魔女が存在していて」

「うん、それは知ってる。みんなを助けてたんでしょ?病気とかケガとか!」

「……。」

穂月が目を伏せた、瞬きをして息を吐いて。

「魔女は魔法が使えると信じられて来た」

「うん…、そうなんじゃないの?だからそれでみんなを助けて来たって」

「そうやって緋呂みたいに素直な発想が出来る人ばかりじゃないよ」

くすっと笑った気がした。たぶんそれは呆れたんだと思う。

「それと同時、魔法で誰かを傷付けることが出来るとも信じられて来たんだ」

「え…?」

誰かを傷付ける?
魔法でそんなこと、できたの?

そんな魔法…


使えたの?


じゃあ大村が言っていたあれは…

“この雨は十六夜のせいだ、十六夜が降らしたんだ!”
< 36 / 79 >

この作品をシェア

pagetop