夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「緋呂、そろそろ帰るぞ時間だ」

もうすぐ夜の9時、これは約束の時間。
穂月と一緒に外を歩いていい、唯一の時間。


毎日たった1時間があたしと穂月がいられる時間なの。


「明日もまた夜の散歩しようね」

「晴れたらな」

「晴れでしょ明日は!」

「夜はわかんないだろ」

丘の上から階段で降りて行く、丘の上は一応公園だけどあるのはブランコとハゲハゲのジャングルジムとさびれたベンチくらいでこの時間は誰もいない。

でもそれがいいっていうか、誰にも邪魔されないところがいいの。


穂月と2人でいられるから。


まぁ今日は猫いたけどね。

「穂月、緋呂おかえり!」

「あーっ、満月(まんげつ)おばぁちゃん!」

家の前に着くと窓から満月おばぁちゃんが顔を出した。

「ばーちゃんまた何か作ってたの?すげぇ薬草の匂いするんだけど」

窓の向こうは満月おばぁちゃん専用のキッチンでよく何かを煮詰めたり燃やしたりしてて、ツンとした鼻を突くような青臭い香りがふわふわと漂ってる。そのせいで満月おばぁちゃんはその香りが沁みついちゃっていつでも薬草の匂いがする。

「もうすぐ緋呂の大事な試合の試験があるって言うからね、おばぁちゃん張り切っちゃったよ!」

背は大きくないけどふくっとした身体にふわふわくるくるの髪の毛は真っ白でいつでも真っ黒なベレー帽を被った満月おばぁちゃんはマントみたいに長い真っ黒のコートは夏でも欠かせない、太陽の光を浴びないようにって。指先まで隠すように真っ黒な手袋してる、絶対暑い。

「はい、緋呂がんばってね!」

「ありがとう満月おばぁちゃん!」

窓から水筒を渡してくれた。ほんのりあったかい。

「出場テストいつあるんだ?」

私たち中学3年生には最後の大会、その出場選手を決める大事なテストがある。これが最後の部活かと思うと力が入って毎日走り過ぎちゃうんだよね。

「今週の金曜日!今めっちゃがんばってるとこだよ!」

「そっか、…でもそれいいのか?変な薬入ってたり…」

穂月が怪訝そうな顔で水筒を指差した。

あぁ確かに、これは…

「大丈夫、大丈夫!」

満月おばぁちゃんがドンッと右手で胸を叩いた。

「これには魔法は使ってないからドーピングにはならないよ!ただのハーブティーだからね!」

そっか、なんだちょっと残念。
どーせなら入っててほしかったけど、本当に入ってたらドーピングになるのも困っちゃうか。

「でも何かあったら言いな、緋呂のことはいつでも守ってあげるから!」

ドンッと胸を叩いて胸を張る。満月おばぁちゃんが言うと心強いよね。

「じゃあ、しっかりね!」

「ありがとうおばぁちゃん!」
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