夜にしか会えない魔女は夜がキライ

night4.)

「綱引きって楽しいね…!」

「こんちゃんこないだまですごい嫌そうだったよ?」

今週こそは体育祭を!

そんなモチベーションで今日も体育はそれぞれ出場種目の練習だった。あんなに嫌がっていたこんちゃんだったけど、ここに来て楽しさを覚えたらしい。

いや、綱引きってそんなに嫌な要素なくない?
クラス対抗綱引きなんておもしろそうな響きしかない!

…って、思うのはあたしだけなのかな。

走るの好きだし、運動好きだし、勝負事って聞いたらめーっちゃ燃えて来るんだけどみんながみんなそうゆうわけじゃないんだよね。


あたしがそう思ってただけで。


体育の授業を終えて、下駄箱で上履きに履き替える。早く教室に戻って制服に着替えないと…

「保健室、寄ってくの?」

「え?」

「今ちょーっとだけ保健室の方見たから、十六夜くんのところ行くのかなって」

「……うん、寄ってく」

あれから穂月とは体育祭の話をしなくなった。テントの話も、消えるようになくなっていった。

「じゃあ先行ってるね!」

こんちゃんが駆けて行く後ろ姿を見送って保健室の前で立ち止まった。毎回巴先生に怒られるくらい勢いよく入っていくんだけど、そんな気にはなれなくて静かに息を吸ってゆっくりドアに手をかけた。

「十六夜くんって魔女なの?」

はっ!?なんていう会話!!?

大村のせいでそんな噂が少しだけ広まっちゃった。

なんてことしてくれたの、てゆーかそんなストレートに聞く!?

聞いてるの誰…っ 

ちょっとだけドアを開けて覗いてみる。
そろーっと気付かれないように…


あ、吉川さん!


2人がイスに座って話していた。巴先生はいないみたい。

「魔女じゃないよ」

「えー、そうなの?魔女だったらよかったのに」

「なんで?」

「魔女だったら、魔法が使えるのかなって」

吉川さんが何気なく言った。ふふって笑いながら穂月の顔を見て。

聞きたくなる気持ちはわかるよ、あたしだって信じてるもん。


でもそれはあたしだけだと思ってた。


「じゃあ試してみる?」

穂月がスッと吉川さんの手を握った。両手で包むように。

あたしの心臓がぎゅっと掴まれたみたいだった。


そんなの見たくない。


そんなことしないでよ。


“絶対いい結果出したいから穂月魔法かけてよ!”


あたし以外に使わないで…っ


開けたドアもそのままで逃げるようにその場から離れるしかできなくて。
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