夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「穂月!おはよう!!」

「おはよ、朝からテンション高いな」

「だって朝だもん!」

「へぇ…」

学校に着いてすぐ保健室へ向かった、穂月はもう来てるんじゃないかって思ったから。

「今日は…保健室(ここ)?」

イスに座って机には教科書やノートを出して今からここで勉強するって感じだった。

「あぁ、今日は1時間目からグラウンド整備だろ?その間自習でもしようかって」

「先週もやったんだけどね」

イスを引いて向かい合うように座った。

先週の雨で開催できなかった体育祭、明日行われることになった。もう1度グラウンドに落ちた石やゴミを拾って、テントを用意したりスコアボードを用意したり、最終チェックってことね。

「ずっと勉強してるのつまんなくない?」

「1人だとはかどっていいよ」

ペラッと国語の教科書をめくった。頬杖をついてじぃっと下を見て。

「…吉川さんがいるじゃん」

少しだけ皮肉っぽく言っちゃった。ふるふる震える唇で、こんなこと言わない方が…

「吉川さんはもう来ないんじゃないか」

「え、なんで…」

俯きかけた顔を上げた。

“じゃあ試してみる?”  


あ、魔法…!


「こんなとこずっといる場所じゃないからな」

穂月は下を向いたまま教科書を見ている。

「…魔法使ったの?」

「え?」

顔を上げたけど、今度はあたしが下を向いたから目が合わなかった。

「……使ってない、魔女じゃないんだから」

「治さない方がよかったんじゃないの?…そしたら1人じゃなかったかもよ」

穂月が吉川さんに魔法を使ったことも、吉川さんといつも保健室(ここ)にいたことも、あたしは寂しくてしょうがなかった。

穂月に1人でいてほしいなんて、ひどい奴だなって思う。

あたしはそんな奴なの。

「しんどいだろ、ずっと頭痛なんて」

また1ページ、教科書をめくる。伏し目がちな瞳は憂いで。

「ここにいるのもしんどいし、それこそつまんないだろ」

「穂月は…それでいいの?」


魔女には押されても針で刺されても痛みを感じない場所がある。


それってどこにあるのかな?

その刻印はどこにあるんだろ?


そんなのどこにあるのか、わからないけど。

「そんなの俺だけでいいよ」


それはきっと心にはないよね。
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