夜にしか会えない魔女は夜がキライ
全種目が終わった、あたしたちのクラスは最後のリレーのおかげでクラス優勝を果たした。最後の体育祭最高すぎる。

ダダダダダッと階段を駆け上がって誰もいないことをいいことに廊下を駆け抜けた。みんなグラウンドにいてここには他にいないから。

「穂月見てた…!?」

息を切らしながら図書室に飛び込んだ。

「あんだけ走っといてまだ走るのかよ」

はぁはぁと肩が揺れる、でもそれ以上に気持ちが先走っちゃって。

早くここへ来たかった。

「見てた?あたし…っ」

「見てたよ」

「…っ」

「見てた、緋呂が1番でゴールテープ切ったとこ」

じわっと瞳が熱くなって泣きそうになった。それだけだったのにうるっと涙が浮かんで。

「すげぇな緋呂は、本当に優勝しちゃうんだもんなぁ」

開けた窓に寄りかかるように頬杖をついて外を見る。ひゅーと入って来た風は涼やかで気持ちよかった。


その後ろで涙をこぼした。


穂月がいてくれたら心強い。

穂月が応援してくれたら力強い。


穂月があたしだけを見てくれたら…


あたしは穂月のためにがんばれる。

何にだってなれるよ。


涙を拭って顔を上げた。


「穂月!」

全部の対戦種目が終わったら、最後はお楽しみがある。たぶんそろそろ音楽が鳴る頃、図書室からは少し聞こえづらいかもしれないけどまぁいいか。

「踊ろう!」

「はぁ!?」

駆け寄って穂月の手を取った。

ここからは今まで戦い合って来たことを讃え合うようにみんなで輪になって踊るんだ。

「マイムマイム!」

「2人で!?」

ぐっと手を引っ張って図書室の真ん中まで、いつもだったら怒られるけど誰もいないしちょっとくらい大目に見てもらおう。

「さすがにマイムマイム2人ではきついから社交ダンスで!」

「社交ダンスってなんだよ、踊ったことねぇよ!」

マイムマイムを伴奏に手を取り合って社交ダンス…はイマイチしっくり来ないけど、どーせここにはあたしと穂月しかいないんだ何でもいいよ。

「昨日シンデレラの映画見たの!だから踊りたくて!ほら、穂月もご先祖様出てたし大丈夫!」

「魔法使いじゃないんだよ俺は!」

「あ、穂月は魔女か!白雪姫ならよかったね!」

見よう見まねのダンスを、険しい顔をして口を紡ぐ穂月と。

あたしはただ笑ってた。
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