夜にしか会えない魔女は夜がキライ
グッと親指を立てて窓が閉められた。すりガラスの窓は部屋の中は見えないけど、薬草の香りは残ったままだった。

「満月おばぁちゃんすごいね、また何か作ってるみたいだったよね」

「ばーちゃんはマジの魔女だからな」

「それも近所で有名なね」

実際はどこまで本当かわからない。

空を飛んだりビームを出したりなんてことはできないって満月おばぁちゃんが言ってた。


でもこっそり教えてくれたの。

魔法は使えるよって。
困った人たちを助けてあげる魔法ならって。


実際魔法使えそうな風貌してるしなぁ、おばぁちゃん。

「じゃあ緋呂またっ」

「あ、待って!」

もらった水筒を両手でぎゅっと握って、家の中に入って行こうとする穂月を引き止めた。

「何?」

「あのっ、さっき今週テストだって言ったじゃん?」

「うん」

「絶対いい結果出したいから穂月魔法かけてよ!」


ドキドキしちゃうこの瞬間はいつも、本当は穂月と目を合わせるのも必死なくらい。


でもあたしが魔法にかかる瞬間だから。


「…じゃあ目つぶって」

静かに目を閉じれば、そぉっとおでこに柔らかい感触が当たる。
そこからぶわっと熱が入り込むみたいに体が熱くなってぎゅんっと胸を突かれる。

本当に魔術が込められてるんじゃないかって思っちゃうくらい。



だからきっと穂月は魔女だ。



穂月の唇から魔女の力があたしの中に溶けていく。


「…じゃ、帰るわ」

「うん、また明日ね」

「おぉ」

まだドキドキ残る胸のままばいばいと手を振った。

…またコーヒーの匂いした。
満月おばぁちゃんは薬草の香りがするけど、穂月はコーヒーの香りがする。

穂月コーヒー好きだよね〜、なんて思いながら玄関のドアを開けた。
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