夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「ねぇ穂月!」

「んー?」

「来週大会なの」

「さっき聞いたよ」

あたしの先を下りて行く穂月の後ろを追いかける。

「あたしの最後の大会見に来てよ!」

絶対断られると思ってた。

いつもそうだし、無理なこと言ってるのはわかってる。


でも言いたかった、最後だもん。

これ以上のことは求めてなかったの。


「いいよ」

「だっよね~、来るわけないよね穂月が…え!?」

来るわけないと思ってた。だから目を丸くして立ち止まっちゃった。

「行くよ、緋呂の最後の大会」

振り返った穂月と目を合う。そんなこと言われると思ってないからポカンって口開いちゃってた。

「来て…くれるの?」

「いいよ、でも俺が行ったら雨かもしれないけど」

「魔女にそんな力ないんでしょ!」

ニッて笑ったから、うれしくてあたしまで笑っちゃった。


ずっとずっと叶わないって思ってたのに、来てくれるんだ…!


とんっと最後の階段を下りた。

足取り軽くてもう1度丘の上まで行けちゃいそう。

「でもいつも行かないって言うのにどうしたの?急に」

穂月の肩に乗ったカラスの頭をなでながら家まで歩く、めーっちゃくちゃうれしい気持ちはあるけどそれはそれでいいのかなぁ…って心配な気持ちにもなるわけで。

「なんでそんなこと思ったの?」

「俺も走ってみたいって思ったからかな」

「え…」

「走る緋呂を見て思った」

あたしを見て…?

「緋呂みたいにって思ったから」

穂月がカラスをなでればにゃ~と甘えた声を出してペロッと指をなめる。

「緋呂のおかげかな、そんなこと考えたこともなかったから」

あたしのおかげ…
あたしは少しでも穂月のためになってるの?

そしたらこんなにうれしいことはないよ。

「え、でもさでもさ!それは気持ちの問題じゃん!?物理的にはどーすんの!?」

「それも緋呂言ってただろ?要は太陽の光に当たらなきゃいいんだよ」

あたしが言ってた??
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