夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「緋呂なんかいいことあった?」

「え?」

「顔、緩みまくりだよ」

学校のトイレで手洗ってるだけでそんなこと言われるとは思ってなかったけど、鏡に映った自分を見たら何もしてないのに口元はゆるゆるだった。

「え、もしかして十六夜くんと…!?」

「こんちゃん何もないから!」

そんなテンション上がる感じのことは何もない。

「じゃあ何?明らかに顔ニヤついてるよ?」

そんな顔に出ちゃってるのかあたしは。

自分が思ってた以上にうれしかったんだね。そりゃあたし的にはすっごいテンション上がる出来事だったんだけど。

「…穂月が大会見に来てくれるっていうから」

「え、そうなんだ!」

ちょっと小恥ずかしい、これだけで超浮かれちゃってるあたし。

「よかったね!緋呂ずっと言ってたもんね!」

「…うん」

めっちゃくちゃ恥ずかしい。つい両手で顔を覆っちゃった。

「なんだよなんだよ照れるなよ~!」

コンコンとこんちゃんが肘で小突いて来る、ちょっとおじさんみたい。

「十六夜くんってさ、うちらより我慢してること多そうじゃん?」

こんちゃんがスカートのポケットからハンカチを取り出して、水で濡れた手をパタパタと拭いた。

「外に出られないって大変だよね」

穂月とはお隣さんの幼なじみ、一緒に遊ぶと言えばだいたい穂月の家。

夜の散歩だって中学生になってから許されただけで、それまではずっと家の中だった。

遠足も運動会も修学旅行だっていつも穂月はいなくて、だから帰ったらたくさん話そうと思っていっぱいいっぱい喋ることを考えてた。

一緒に穂月にも楽しんでほしくて、一緒には行けなかったから。

「よかったね、十六夜くんも楽しみだね!」

穂月も楽しみ…にしてくれてるかな?

あたしだけじゃないかな、こんなにワクワクしちゃってるのは。

楽しみにしてくれてたらいいな。
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