夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「失礼しました…」

ぺこりと頭を下げて救護室から出て来た。

廊下を真っ直ぐ行ったところが入口でそこまでなら走れそうにはないけどギリ歩けなくは…ない、てゆーかここにはいたくなくてせめて応援したいからって出て来ちゃった。

壁づたいにひょこひょこ足を引いて、ほんと何やってるんだろあたし。

せっかくこんちゃんも来てくれたのに何て言おうかな、大会前に足くじいたとか萎える自分…

出そうになるタメ息を無理にしまい込んで脱ぎっぱなしだった靴に履き替える。

ケガした方の右足は…

「入らないか、腫れちゃってるし」

まぁいいか、履かないでもこのままでいいや。

左足だけ履いて右の靴は手に持ったまま外に出た。

建物の外の少し先までは屋根があったけど、数歩歩けばすぐに太陽の光が差して来て。

3段ある階段を1段下りたらもう暑くてしょーがなかった。

太陽が眩しい、今日は特に日差しが強い気がする。


あー…なんかクラクラする。

光りが強すぎて、上なんか向くんじゃなかった。


「緋呂?」


視線を下に向けた瞬間スッと頭の上に影ができた。

え、光りが消えた。


じゃなくって、この声は…!


「穂月っ」


すぐにパッと顔を上げた。

真っ黒な日傘をさして、穂月が目をぱちくりさせていた。

「穂月来てくれたの…?」

下から上まで黒の服を纏って、こんなに暑いのに全身を覆い隠して…絶対しんどいと思うのに。

「行くって言っただろ?」

穏やかな顔で笑ってた。 

「緋呂は来なくていいって言ったけどな」

やばい、我慢してたのに。  

絶対ダメだって救護室にいる時から思ってたのに。

「俺は来たかったから」

涙が出ちゃうよ。

必死に抑えてたものが一気に溢れ出す、大粒の涙がポロポロ流れてく。

ぎゅっと左手に力を入れる、靴のかかと部分を握るようにして。

俯きながら右手の甲で涙を拭った。

「あたし…出れなくなっちゃった、穂月に…見てほしかったのに見せられなく…なっちゃったっ」

どんどん声が消えていく。

下を向いちゃったからかな、涙がこぼれちゃったからかな、穂月が来てくれてうれしいのに全然笑えない。
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