夜にしか会えない魔女は夜がキライ
「緋呂…」

ぐしゃぐしゃな顔で穂月と顔を合わせた。

やっぱりこの時間から救護室に来る人はいなくて入口さえ誰も通らない。

「ごめん、俺の方こそ…」

目を伏せた穂月にふるふると首を振った。

もう涙で声が出なくて。

「俺は緋呂が誘ってくれて嬉しかった、本当はずっと行きたかったけど行く勇気がなかったから…」

穂月にとって太陽の下はそんなところ、ううん…行けないところだったんだ。

「太陽の下を歩ける緋呂が羨ましかったし、気持ちよさそうに走る緋呂を見て俺は普通じゃないんだって…」

「そんなことっ」

「うん、だから…いつも俺を呼んでくれてありがとう」

真っ直ぐあたしを見てた。

少しだけ口角を上げて、力強い瞳であたしを。

「…っ」

じわじわじわってまた瞳の中に水分が溜まる。

少しでも動いたらこぼれ落ちちゃう。

もうユニフォームは涙でびちゃびちゃだ。

「でも体育祭のテントはなくてもよかったけどな」

「今それ言う!?」

いや、そうなんだろうなぁって思ってたけど!ハッキリは言わなかったけどそんな顔してたし、あたしに振り回されて言えなくさせてたんだと思ってたけど!

「だからあぁゆうのは今後もいらない」

「わかったよ、ごめんね!余計なことして!」

「そうだな」

あれが失敗だったのは反省したもん、先生にも言われたしもう絶対しないっ

「だって俺が見たいのは緋呂だけだし」

「…っ!」

少しでも動いたらこぼれちゃうって思ってたのに、スッて消えるようにどこかに行ってた。

たぶん顔が熱すぎて蒸発しちゃったんだ。

わぁって開いた口の塞ぎ方がわからないんだけど!?

なにそれ、なにそれっ、何…っ!?

「いつか…緋呂の隣を歩きたい、太陽の下を一緒に」

「…っ」

「まぁこんな格好だし、日傘はいるしめんどくさいけど…緋呂がいいなら」

視線を交わして、見つめ合って。

そんなの…

「絶対だよ…っ」

消えたと思ってたのにな。

隠れてただけだった、すぐに溢れて来ちゃった。


明日でも明後日でも来年でも10年先でもいい。

そうやって約束してくれるなら。



だってそれだけずっと一緒にいてくれるってことでしょ?
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