大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
その言葉を聞くと、思わず顔を上げた。
目の前には全く表情を変えない嶺士がこちらを見据えている。
燈里の意識がこちらに向いたと悟ったのか、嶺士は続ける。
「あの者たちは君たちを攫うように命じられただけの捨て駒だったみたいだが、そのバッグにはあの詐欺グループのボス――朝晴の命を奪った男がいる」
燈里も詳細なことは聞かされていないが、朝晴は巨大な詐欺グループを追っていた。
そのボスは不知火と呼ばれているらしい。本名なのか偽名なのか不明だが、恐らく偽名だろうとのことだ。
決して自分は表には出ないが、数々の詐欺事件の黒幕と言われ警察が血眼になって探している人物である。
その男に朝晴はあと一歩のところまで迫り、銃弾に倒れたのだった。
「これは公にしていないことなんだが、朝晴は発砲をしている。彼の持っていた拳銃が一発使われた跡があった。どうやら朝晴は、ボスの不知火に一発当てていた可能性があるんだ」
「えっ」
「そして恐らく不知火は受けた銃弾を取り除いていない」
「取り除いてない?それで生きていられるんですか?」
「かなりの痛手にはなるだろうが、当たった部位によっては命に別状はないこともある」
信じ難い話だった。まるで刑事ドラマのような話に燈里は現実味を感じられない。