大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜
それを言われるとグッと口を噤むしかない。
母に危険が及ぶことは何としても避けたい。燈里にとってはたった一人の家族なのだから。
「……あなたはそれでいいんですか?あなたにとって私と母を守ることは仕事でしょう?そのために結婚だなんて」
「いい加減身を固めろと周りがうるさくてな。今は特定の相手もいないし、全く問題ない」
それでも結婚は自分の人生において大事なことのはずだ。
好きでもない相手と仕事の延長で結婚してしまえるなんて、やはりこの男は普通ではないのだろうと思った。
「はっきり言いますが、私はあなたのことが嫌いです。兄のこと、今でも許すつもりはありません」
燈里は嶺士の目を見てはっきりと言い切った。
「結婚だなんて冗談じゃない。でも母のことは、何があっても絶対に守ってくれるんですね?」
「ああ、約束する」
「母は元々病弱で今も病院に通っているんです。これ以上母に負担はかけたくありません。何より私は、母のことまで失いたくない」
もう大切な人を失うのは沢山だ。母までいなくなってしまったら、きっと燈里はこの先生きていけない。
「あなたの妻になります」
たとえこの世で最も嫌いな人と結婚することになっても、この世で最も大切な人を失うことになるくらいなら。
燈里は覚悟を決めた。