大嫌い、なのに抗えない。〜冷酷警視との子づくり契約婚〜


「とても綺麗よ、燈里」


 燈里のウェディングドレス姿を見て智佳子は涙を流す。
 喜んでくれているのだと思うと、少しは親孝行になっているのかなと思った。

 純白のタキシードに身を包み、髪をオールバックにセットした嶺士は普段のスーツ姿より美貌に磨きがかかっていた。
 何も知らない友人たちは、なんてハイスペックなイケメン旦那を捕まえたのだときゃあきゃあ騒いでいた。
 燈里は曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。

 左手の薬指に嵌められた結婚指輪。有名なジュエリーデザイナーが特注で作ったという世界に二つだけの指輪である。
 中央に埋められたダイヤモンドが、眩い程の輝きを放っている。
 指輪を交換しながら、自分の左薬指に嵌められていることが違和感でしかなかった。

 誓いのキスが嶺士との初めてのキスだった。
 ときめきなんてものはない、ただの形式的な儀式だと思った。

 役所に婚姻届の提出も済ませ、その日から満咲燈里に変わる。
 新居として引っ越したのは、智佳子の自宅と歩いて数分のところにある二人で住むには広すぎる戸建てだった。
 四LDKに加えて広々とした庭まである。

 どうせ今だけの契約結婚なのに、何故こんなに大きな家を選んだのだろう。これが富裕層の金銭感覚なのかと溜息が漏れ出た。
 だが、燈里の予想の遥か斜め上をいっていた。


「子どもができたら、広い家の方がいいだろう」


 正に結婚式を終えた日の夜、何気なく新居のことを呟いたら想定外の返答が返ってきた。
 燈里は思わず自分の耳を疑った。

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